笑府
『大学』の開巻第一句は、
「大学の道は、明徳を明らかにするに在り」(大学之道、在明明徳)
である。
さて、ある素読(そどく)の先生、弟子に、
「『大学の道』とはどういう意味ですか」
とたずねられ、急に酒に酔ったふりをして、
「おまえたちは意地がわるい。よりによって、わしが酔っているときに質問をする」
といって答えなかった。
家に帰ってから妻にそのことを話すと、妻は、
「『大学』というのは書物の名で、『之道』というのはその書物の中に書かれている道理ということですよ」
といった。先生は「なるほどそうか」と思い、よく覚えておいて、翌日、弟子たちに向っていった。
「おまえたちは意地がわるい。きのうわしが酔っていたときには質問をしたくせに、きょうはいっこうに質問しないのは、どういうわけじゃ。きのう質問したのは何だったかな」
「『大学の道』ということでした」
「うん、そうだったな」
先生はそういって、妻に教えられたとおりに説明した。そこで弟子たちはまた、
「『明徳を明らかにするに在り』とはどういう意味ですか」
とたずねた。すると、先生はまた急に額をこすりはじめて、
「ちょっと待て。わしはまた酒に酔ったようじゃ」