笑林広記
ある男、生れついての怠け者で、昼も夜も寝ころんだまま、めったに体を動かすこともなく、三度の食事も口を動かすのが大儀だからといって食べずに、ただうつらうつら寝ているうちに、とうとう餓死してしまった。
死んで地獄へ行ったその男に、閻魔大王は、生前の怠け根性を罰して、
「猫に生れかわらせる」
と言い渡した。すると男はめずらしく口を開いて、
「大王さま、お願いがございます。猫になるのでしたら、大王さまのお情けによりまして、どうか、体の毛は全部黒色で、ただ鼻の先だけを白く残してくださいませ」
「なぜそういう猫を望むのだ」
「はい。そういう猫に生れかわらせていただけますならば、わたくしはじっと暗がりに寝ていることにいたします。そうすると鼠がわたくしの白い鼻を見て団子かと思い、食べようとしてわたくしの口の傍までやってくるはずでございます。そうすれば一口で鼠を噛み取ることができて、手間がはぶけると思いまして」