笑林広記
老人夫婦が向いあって日向(ひなた)ぼっこをしていた。そのうちに婆さんがおかしな気になってきて、爺さんを引っぱってうながしたが、爺さんのそれは寒さのためにちぢかんでしまったまま、いっこうに立ちあがらない。そこで婆さんがいった。
「出して、日にあててみましょう。ぬくもってきたらきっと立ちますよ」
「そうだな」
二人はズボンをぬいで、いっしょに日にあてた。しばらくすると婆さんが、
「わたしはもう、十分にぬくもってきましたよ。さあ、早く早く」
といったが、爺さんは、
「わしのはまだぬくもらんよ」
という。
「いっしょに乾(ほ)しているのに、どうしてこうもぬくもり方がちがうのでしょうかねえ」
「おまえは開いて乾しているが、わしは丸ごとで乾しているのだからな。丸乾しは開き乾しのような具合にはいかないよ」