笑海叢珠
ある染物屋に娘がいた。まだ嫁入り前だったが、すでに処女(おとめ)ではなかった。
その娘に仲人婆さんの口ききで縁談がまとまった。婚礼の日が迫ってくるにつれて、娘の家では心配でならない。そこで仕方なく、娘の体のことを仲人婆さんにうちあけた。すると婆さんは、
「よくあることですよ。心配なさいますな」
という。
「気づかれずにすむ法でもあるのでしょうか」
「婚礼のときにはわたしがついて行くのですから、わたしにおまかせくだされば大丈夫です。当日になったら、染物に使う紅(べに)を少し包んでわたしにお渡しください」
やがてその日になった。娘は心配のあまり気が転倒していたので、藍(あい)の染粉の壺を紅の壺とまちがえ、一つまみ包んで婆さんに渡した。
式は無事にすみ、床(とこ)入りをしたが、一儀(いちぎ)のあと新郎は嫁が処女ではなかったといって怒った。仲人婆さんが不審に思い、使い残した染粉を指の先につけて見ると、なんとそれは藍の染粉だった。そこで婆さんは新郎にいった。
「花嫁さんが処女ではなかったなんて、とんでもない言いがかりです。きっとあなたは夢中になって力を入れすぎなさったのでしょう、だから胆まで突き破ってしまったのです。この黒っぽい血のあとがその証拠ですよ」