笑苑千金
女房をおそれている男がいた。その友人が入れ知恵をしていった。
「奥さんをこわがらないようになるまじないがあるから、やってみるがよい。奥さんの肖像を掛けておいて、毎朝それに水を吹きかけ、指をさして、『おまえをこわがらない! おまえをこわがらない!』というのだ。そうすればだんだん奥さんがこわくなくなってくる」
男がそれを真(ま)に受けて、
「おまえをこわがらない! おまえをこわがらない!」
といっていると、女房がそれをききつけ、いきなり殴りかかってきた。男は逃げまわりながら、
「待ってくれ。おれの祈りにはまだあとがあるのだ。殴るのはあとの文句をきいてからでもよかろう」
「あとの文句って何よ」
「おまえをこわがらない! おまえをこわがらないで、いったい誰をこわがろう!」