笑府
恐妻家でしかも体面をつくろってばかりいる男、客と対坐しながら、
「おい、お茶を持ってこい」
と呼ぶのだが、何度呼んでも女房はいっこうに持ってこない。そこで、わざと怒ったふりをして、
「まったく何という女だ! 仕様のないやつだ!」
などといいながら、じつは自分でお茶を取りに行った。
すると衝立のかげで待ちかまえていた女房が、いきなり夫の頬を殴った。男は痛さをこらえながら、客にきこえないように小さい声でいった。
「わたしが、何という女だとか仕様のない人だとかいったのは、あんたがお茶を持ち上げられないということをおもしろくいっただけのことなんだよ」