笑海叢珠
ある若者、器量よしの隣家の娘に惚(ほ)れ込み、なんとかしてねんごろな仲になりたいと、その機会をねらっていた。娘の方でもその若者を憎からず思っていたので、気持はぴったりと合ったものの、人目がうるさくて、じかに会う機会がない。二人は塀をへだてて密談をかわしたあげく、塀のちょうどうまい具合のところに節穴(ふしあな)があいているのを幸い、その穴を使って交合することにした。
その何度めかのとき、待ちかまえていた若者は塀の向うで娘の声がしたので、いそいで一物を穴へさし入れた。ところがそれよりも一瞬早く、娘は誰かが庭へはいってくるのを見て、あわてて身をかくした。
庭へはいってきたのは娘の家の下男だった。下男は塀の節穴から一物が突き出ているのを見ると、そっと近寄って行って、針をその頭に突き刺した。
「あ痛っ!」
と若者がうめき声をあげると、下男はどなった。
「仕立屋を見ろ。頭に何本も針を刺しているじゃないか。たった一本ぐらいで何をそんなに痛がるんだ」