笑府
ある和尚、檀家へお経を読みに行った帰り道で虎に出会った。肝をつぶし、鐃〓(にようはち)(僧侶が法会(ほうえ)に用いる楽器。浅い鍋形の薄い銅板二枚を打ち合わせて鳴らせる)の一枚を投げつけると、虎はそれを呑み込んで進み寄ってくる。残りの一枚を投げつけると、また呑み込んで、いよいよ近寄ってくる。和尚はもはや絶体絶命と観念して経文を投げつけた。すると虎は、あわてて穴の中へ逃げ帰って行き、和尚は事なきを得た。
さて、穴へ逃げ帰った虎は、仲間の虎にわけをきかれて、いった。
「じつに怪(け)しからん和尚だった。薄いこりこりするものを二切れご馳走してくれたのはよいが、なんと、そのあとですぐ勘定書きをつきつけやがるんだ。逃げないわけにはいかないじゃないか」