笑府
ある極寒の年に、真珠商人の船が洞庭湖(どうていこ)で浅瀬に乗り上げた。幾日も動きがとれず、食糧がなくなってきて、乗組員たちはこのままでは餓死(うえじに)するよりほかないありさまになった。近くの船に一人の尼僧が乗っていて、米をたくさん積んでいたので、真珠を安くするから米と交換してほしいとたのんだが、尼僧は木魚を叩いて念仏をとなえながら、
「いやだ、いやだ」
と首を振る。
「真珠一斗と米一石(十斗)なら換えてくれますか」
「いやだ、いやだ」
「真珠一斗と米一斗となら?」
「いやだ、いやだ」
「それでは、どうしたら承知してくれるのですか」
尼僧はやはり木魚を叩きながら、
「どうしてもいやだ。おまえさんたちが餓死してしまったら、真珠はそっくりわたしのものになるはずだから」