笑府
僧侶が渡し場で、
「船に乗せてください」
とたのんだ。船頭は、
「船の中にはご婦人の客がいらっしゃるので、ずっと眼をつぶっているなら乗せてあげてもよい」
といって乗せた。僧侶は船に乗ると、船頭にいわれたことを守ってずっと眼をつぶっていた。
やがて船が向う岸に着くと、船頭が僧侶に、
「さあ、立ちなされ」
といった。僧侶が立ちあがったとたん、船頭は僧侶の頭を殴りつけた。僧侶が顔をしかめて、
「阿弥陀仏(お や お や)、愚僧は一度も眼をあけなかったのに、どうして殴るのです?」
というと、船頭は、
「わしに、おまえさんが腹の中で考えていたことがわからんとでもいうのかい」