笑府
ある役人、役所の小使が鬢(びん)に一文銭をはさんでいるのを見て、なんとかして取り上げたいと思ったが、うまい口実がない。そこで居眠りをしているふりをして、
「一文銭でよい、一文銭でよい」
とつぶやき、ぱっと目をあけて、
「つい居眠りをしてしまった。不思議な夢を見たが、なにか寝言をいわなかったか?」
とたずねた。
「はい、なんでも、一文銭でよいとかいっておいでのようでしたが……」
と小使がいうと、
「おお、そうだ。そうだったのだ」
といって、小使が鬢にはさんでいる銭を取り上げ、神に祈るふりをして、
「神様、夢のお告げのとおりにいたしましたゆえ、どうかおめぐみを与えてくださいませ」