笑府
『論語』に次のような一章がある。
「厩焚(や)けたり。子、朝(ちよう)より退きて曰く、人を傷つけたるやと。馬を問わず」(郷党篇)
さて、ある道学先生が役人をしているとき、馬小屋が焼けた。童僕たちが総出で消しとめて大事に至らなかったが、あとでそのことを先生に知らせると、先生は、
「人を傷つけたるや」
ときいた。
「いいえ、怪我人は出ませんでしたが、馬の尻尾が少し焼けました」
童僕がそういうと、先生はひどく怒って重罰を課した。
ある人がそのわけをたずねると、先生はいった。
「孔子様が馬を問わなかったことは、誰でも知っているはず。わたしも馬を問わなかったのに、あの童僕はわたしの問いもしないことを答えたからです」