笑賛
言葉を学ぼうとしている男、人が「豈有此理(そんなばかな)」といったのをきいて、なかなかいい言葉だと思い、ときどき口のなかで練習していた。たまたま川を渡るとき、どさくさしているうちについ失念してしまったので、船の中をあちこちさがしまわった。船頭がそれを見て、
「何か落し物をしましたか」
ときくと、男は、
「うん、言葉を落したんだ」
という。
「言葉を落すなんて、豈有此理(そんなばかな)!」
と船頭がいうと、
「なんだ、おまえが拾っていたのか。それならそうと、なぜもっと早くいってくれぬ」