世説新語(夙恵篇)
晋の明帝(司馬紹(しばしよう))が五、六歳のときのこと。父の元帝(司馬睿(えい))の膝に坐っていると、長安から人がやってきた。
「長安とお日さまと、どちらが遠いと思うかね」
元帝がたずねると、明帝はすぐ、
「お日さまです」
と答えた。
「どうしてだ」
「お日さまから人が来た話はきいたことがありませんから」
「なるほど」
元帝はその答に満足した。
翌日、群臣を集めて宴を張ったとき、元帝は昨日のことを話して、もういちど同じことを明帝にたずねた。すると明帝は、
「長安です」
と答えた。
「どちらが遠いかときいているのだよ」
「長安です」
「それでは、どちらが近い?」
「お日さまです」
「どうしてだ」
「眼をあげると、お日さまは見えますが、長安は見えませんから」