笑府
日頃よく鬼の顔をして見せて人を笑わせていた男が、死んで閻魔大王の前に引き出された。大王が男にきいた。
「おまえは前世で、何か得意な芸があったか」
「はい。鬼の顔をまねて人を笑わせることが得意でした」
「わしは鉄面の閻魔王といわれているとおり、まだ一度も笑ったことがない。おまえがもしわしを笑わせることができたら、おまえを天上世界へ送ってやろう」
そこで男が鬼の顔をして見せると、大王はたちまちわっはっはと笑いだし、牛頭(ごず)と馬頭(めず)に、
「この者を天上世界へ送ってやれ」
と命じた。
牛頭と馬頭は男を送って行く途中、並んでひざまずいて男にたのんだ。
「大王さまはいつもこわい顔をしておいでで、とても厳しいお方です。わたしたちはびくびくしどおしなのです。もしわたしたちにもあなたのように鬼の顔のまねを上手にすることができて、大王さまに笑っていただけるならば、どんなに幸せになれるかわかりません。どうか、ぜひともわたしたちにそのまねの仕方をお教えください」
すると男は、
「わたしがあなたがたに教えるなんて」
といい、そして、
「ちょっと顔を上げて、よく見せてください」
といった。牛頭と馬頭が顔を上げると、男はつくづくその顔を見て、
「それで十分ですよ。わたしのは、じつはあなたがたの顔のまねなのです。あなたがたのはほんものだが、わたしのはまねだから大王さまはお笑いになったのでしょう」