荘子(天運篇)
呉と越が抗争していたとき、越王勾践(こうせん)が呉王夫差(ふさ)を油断させるために献じた女たちの一人に、夫差の寵愛を一身に集めた西施(せいし)という美女がいた。
その西施がまだ郷里の村にいたときのことである。西施は胸を病んでいて、その痛みのために眉をしかめて歩いていたところ、同じ村に住んでいた醜女(しこめ)がそれを見て「美しいなあ」と思った。醜女は家へ帰ると、自分も西施のように眉をしかめて歩いたら村の人たちが美しいと思ってくれるかもしれないと考え、さっそく、西施のまねをして村を歩きまわった。
すると、それを見た村の人たちはみな怖気(おじけ)をふるい、金持は門をしめて家の中にとじこもってしまい、貧乏人は家族をつれて村から逃げだしてしまった。