笑府
ほらを吹くことの好きな兄弟がいた。あるとき二人は話し合って、今後は嘘をついてもあやしんで問い返してはならぬ、あやしんで問い返した者は罰として銀一両ぶんを相手におごる、という約束をした。
ある日、兄が弟にいった。
「隣り村にとてもいい水の湧く井戸がある。昨夜泥棒がその井戸を盗んで逃げたが、人に気づかれて追いかけられたものだから、地面へ放り投げて行ってしまった。そのため井戸は三つに折れてしまったそうだ」
「まさか、そんなことが……」
と弟がいうと、兄は前の約束を持ち出して、弟に明日銀一両ぶんをおごることを承知させた。
さて翌日、約束の時刻になっても弟がこないので、兄が弟の家へ行ってみると、もう昼近いのに弟はまだ顔も洗っていない。
「いったいどうしたのだ」
ときくと、弟は、
「昨夜えらいことがおこったんだ。女房のやつが急に腹が痛みだして、夜中になってつづけさまに男の子を十七、八人も生んだのだ」
「まさか、そんなことが……」
と兄がいうと、弟は、
「よし、これで帳消しだ」