広笑府
ある貧乏な男、冬、金持の親戚の宴会に招かれたが、裘衣(かわごろも)がない。仕方なく葛衣(くずかたびら)を着て行ったが、人に笑われるのをおそれ、わざと団扇(うちわ)を使いながら、
「わたしはひどい暑がりでして、冬でもこうして涼(りよう)を取らないとやりきれないのです」
といった。主人はそれが嘘だということを見抜いていて、宴会が終るとわざと、歓迎の意を表わすふりをして男を池亭(ちてい)に泊らせた。夜具は夏枕に薄い掛布(かけふ)一枚きりである。男は寒くてならず、夜中に藁蒲団を背負って逃げだしたが、とたんに足を踏みはずして池の中へ落ちてしまった。物音をきいて起きだしてきた客たちが、このありさまを見てびっくりし、
「いったい、どうしたのです」
と池の中へ声をかけると、男はもがきながら、
「わたしはひどい暑がりで、ご主人の好意で真冬に涼しい池亭に泊めてもらったのに、それでもまだ暑くてならないので、こうして水浴びをしているのです」