笑府
兄弟二人で畑仕事をしていたが、兄が飯を焚(た)くために先に帰り、やがて飯ができると、畑の弟に向って大声で、帰ってこいと呼んだ。すると弟も大声で、
「鍬(くわ)を畦(あぜ)のところへ隠しておいてから帰るよ」
と答えた。
飯を食べながら兄は弟に、
「物を隠すときには、人にわからないようにするものだよ。あんな大きな声でいったら、人がきいていて盗んで行くかもしれないじゃないか」
といった。弟は、なるほどそうかと思い、飯がすむとすぐ畑へ行ってみたが、鍬はもうなくなっていた。そこであわてて家へ帰り、兄の耳もとへ口を寄せて、声をひそめていった。
「兄さん、鍬はもう盗まれていたよ」