世説新語(任誕篇)
河内の陳留には阮(げん)氏の一族が多かった。
阮籍(げんせき)とその甥阮咸(げんかん)とは、ともに竹林の七賢に数えられる人であるが、道路の南側に住み、ほかの阮氏たちは北側に住んでいた。北側の阮氏は富裕だったが、南側の阮氏は貧乏であった。
七夕(たなばた)祭りの日、北側の阮氏は盛大に衣裳の虫干しをした。錦や絹のきらびやかな衣裳ばかりである。阮咸はそれを見ると、竿のさきに(ふんどし)を結びつけて家の中庭に立てた。ある人があやしんでわけをたずねると、阮咸はいった。
「まだ俗気をぬけることができないので、わたしも虫干しをしてみたというわけだ」