笑府
ある人が寺へ詣って西坊へ行ったところ、僧侶にそっけなくあしらわれたので腹を立て、こんどは東坊へ行ってみた。すると僧侶がお経を読んでいたので、たずねた。
「誰のためにお経を上げているのです?」
「誰のためということなしに読んでおります。もし旦那さんがお布施をくださいますならば、旦那さんに代ってお経を上げてさしあげましょう」
「代りをするのが坊主の役目というわけか」
その人はそういうなり、いきなり僧侶の頭を拳骨で殴った。
「いったい、わたしに何の罪があって……」
と僧侶がいうと、その人は、
「西坊の坊主が生意気なやつだったので、そいつの代りにおまえさんを殴ったのだ」