笑府
ある人、遠方へ出かけることになって、息子に、
「わしの留守中に誰かが訪ねてきて、お父さんはとたずねたら、『所用で遠方へ出かけました。どうぞおはいりになって粗茶でも召しあがってください』というんだぞ。そういえば帰って行くからな」
と教えたが、忘れてはいけないと思って口上を紙に書いて渡した。息子はそれを袖に入れて、父親が出かけて行ったあと、ときどき出して見ていた。ところが三日たっても誰も訪ねてこないので、もう書付けはいらないと思い、火にくべて焼いてしまった。すると四日めに、突然、人がきて、
「お父さんは?」
ときいた。息子はあわてて袖の中をさぐったが、もうないので、いよいよあわてて、
「なくなりました」
というと、客はびっくりして、
「いつなくなられました?」
ときく。
「はい、きのう焼いてしまいました」