前回の最近買い物をしなくなったという話、訂正します。
海外旅行に出かけた時、私はいつも自分に言い聞かせる。
「今回は何も買わない。おいしいものを食べたり、ナンカ見るだけにする!」
最初の三日ぐらいはこれを守る。が、ひとつの店で何か買うともう歯止めがきかなくなる。もう、いつもどおり買い物しまくる。
これって、誰もが経験することだと思う。
私は今、倹約しなきゃいけないんだ。もうお金は遣わない、買い物しない、と固く戒めていた私であったが、青山の「グッチ」で、革のスカートを買ったのをきっかけに、あとはもう雪崩のごとく、お買い物モードに入ってしまった。
似ているようでも、昨年と今年のお洋服は違う。そんなことより何よりも、いろんな売り場から可愛いもの、素敵なものが私を手招きしている。
気づいたら、うちの中は買い物袋がいっぱい。
「ああ、私って、どうしてこんなに意志が弱いんだろう」
自己嫌悪に陥ってしまった。
ところが、上には上がいるものである。
先週のことである。さるフレンチレストランで、テツオの編集長就任ディナーが行われた。その時、サイモンさんがSさんという女性を連れてきたのだ。
Sさんは、元「アンアン」のスタイリストをしていた女性で、ヘアメイクの藤原美智子さんとウリふたつの美人である。彼女はかつて香港の大富豪と結婚していたという過去を持つ。香港在住のスーパーリッチな女性ということで、テレビで見た人もいるかもしれない。
水色のチャイナドレスを着ていたが、靴がマノロブラニクであった。そう、先週私が嫉妬《しつと》した、かの桜沢エリカさんが履いていたあれよ。爪先のところにお花がついている、もの凄《すご》くラブリーなサンダル。十センチぐらいのピンヒールで、体重制限がある靴だ。私は一生履くことが出来ない、きゃしゃな靴である。
おまけに宝石がすごい。黒真珠、ダイヤの指輪、アクアマリーンのブレスレット……と書くと、いかにもお金持ちのオバさんっぽいが、元々スタイリストなので、どのデザインも凝っていてしゃれている。
「こんなに大きいダイヤでも、こんなに可愛いものがあるのね」
と「ギンザ」編集長のヨドガワさんが感心していた。ちなみにSさんは、ヨドガワさんの昔からの友人で、「ギンザ」において香港特集のナビゲーターもつとめている。ヨドガワさんに言わせると、Sさんは、
「日本でいちばんエルメスを持っている人」
なんだそうだ。うちに行ったら、ショッピングバッグのごとく、ケリーやバーキンが無造作に置いてあったという。
「でもこの頃は、そんなにお買い物をしていないわ」
とSさん。
「月に二百万ぐらいしか買ってないもの」
その言葉にみんな驚きの声をあげる。大富豪の奥さんだった時は、月に六百万円遣っていたそうだ。
「どうやったら、六百万遣うことが出来るの」
とサイモンさんが尋ねた。
「あのね、買い物だけしてるの。朝ご飯を食べて、お化粧すると車が来る。その車に乗って、いろんなお店に行くと一日が過ぎていくの」
いっぺんでいいから、そんな生活をしてみたいと、女たちはため息をついた。
彼女は私と同じ歳であるが、若くみえるしすっごく綺麗《きれい》。昔も今も、恋人がいなかったことはないという。もの凄くモテるみたいだ。
私は思った。買うことの活力が、彼女にこのような魅力を与えているんだ。やっぱりビンボーくさいことをしていると、ビンボーくさい女になってしまう。
自分でも洋服が好きで、ギャラのほとんどは洋服代に消えてしまうという女優さんと、ケチして洋服はいつもリース、という女優さんとでは、テレビやグラビアに出た時すごい差がつくのと同じだ。どんなに腕利きのスタイリストがついていようと、買い物をしない女は、洋服を着こなす能力が弱ってしまう。
「そんなこといっても、お金持ちの女にしか出来ないことじゃない」
などと言ってはいけない。Sさんにしても、昔はふつうの女のコだったんだ。徳島の田舎(なんとサイモンさんの高校の先輩である)から出てきて、おしゃれとセンスを身につけていった。パワーとオーラがある人だったから、大富豪のジュニアも魅せられたに違いない。
そうよ、そうよ、お買い物をすることで、女は不思議なパワーをもらうのである。このところウツウツとしていた私であったが、グッチやダナキャランでお買い物をしたとたん、急に元気になったではないか。帰りに友人と、表参道のカフェに行き、初夏の風にあたりながらアイスティを飲むと、しみじみ幸せだと思った。
私の友人は若いからお金がない。だからグッチで、小さな財布だけ買っていた。でも、やはりとても幸せな気分と言った。
私とサイモンさんは、近いうちにSさんに香港に連れていってもらうつもり。よーし、本気を出して買いまくるぞ。