一一四 山口のダンノハナは今は共同墓地なり。岡の頂上にうつ木を栽《う》ゑめぐらしその口は東方に向かひて門《もん》口めきたる所あり。その中ほどに大なる青石あり。かつて一たびその下を掘りたる者ありしが、何者をも発見せず。後再びこれを試みし者は大なる瓶あるを見たり。村の老人たち大いに叱りければ、またもとのままになしおきたり。館の主の墓なるべしといふ。ここに近き館の名はボンシヤサの館といふ。いくつかの山を掘り割りて水を引き、三重四重に堀を取り廻らせり。寺屋敷砥《と》石《いし》森《もり》などいふ地名あり。井の跡とて石垣残れり。山口孫左衛門の祖先ここに住めりといふ。『遠野古事記』に詳《つまびら》かなり。