五 遠野から釜石へ越える仙人峠は、昔その下の千人沢の金《かな》山《やま》が崩れて、千人の金掘りが一時に死んでから、峠の名が起こったという口碑があり、上《かみ》郷《ごう》村の某寺は近江弥《や》右衛《え》門《もん》という人がその追善のために建立したとも言い伝えている。また一説には、この山には一人の仙人が棲《す》んでいた。菊の花を愛したと言って、今でもこんな山の中に、残って咲いているのを見ることがある。それを見つけて食べた者は、長生きをするということである。あるいはその仙人が今でも生きているという説もある。前年釜石鉱山の花見の連中が、峠の頂上にある仙人神社の前で、記念の写真をとった時にも、後で見ると人の数が一人だけ多い。それは仙人がその写真に加わって、映ったのだということであった。