一〇 綾織村字山口の羽《は》黒《ぐろ》様《さま》では今あるとがり岩という大岩と、矢《や》立《たて》松という松の木とが、おがり(成長)競べをしたという伝説がある。岩の方は頭が少し欠けているが、これは天《てん》狗《ぐ》が石の分際として、樹木と丈《たけ》競《くら》べをするなどはけしからぬことだと言って、下駄で蹴欠いた跡だといっている。一説には石はおがり負けてくやしがって、ごせを焼いて(怒って)自分で二つに裂けたともいうそうな。松の名を矢立松というわけは、昔田村将軍がこの樹に矢を射立てたからだという話だが、先年山師の手にかかって伐り倒された時に、八十本ばかりの鉄矢の根がその幹から出た。今でもその鏃《やじり》は光明寺に保存せられている。