八六 ベロベロの鉤の遊びは他の土地にもあることと思うが、遠野地方では多くは放屁の主をきめる時に行なっている。子供が一人だけ車座の中に坐って萱《かや》や萩《はぎ》の茎を折り曲げて鉤にしたものを持ち、それを両手で揉《も》みながら次の文句を唱え、その詞の終わりに鉤の先の向いていた者に、屁の責任を負わせる戯れである。
なむさいむさい(あるいはくさい)
べろべろの鉤《かぎ》は
とうたい鉤で
だれやひった、かれやひった
ひった者にちょっちょ向け
しかしこの鉤遊びの誓文を立てぬ前に、もう挙動で本人はほぼ知れているゆえ、術者が機を制して、おのずから向くべき方に向くのはもちろんである。