九七 昔青笹村の力士荒滝は、六角牛山の女神から大力を授かったという話がある。附馬牛村字石《いし》羽《ば》根《ね》の佐々木権四郎という人はこの話を聞いて、おれは早池峰山の女神に力を授かるべしと祈願をしたが、後はたして川原の坊という処で、権四郎は早池峰の女神に行き逢うて、何かある品物を賜わってからたちまち思うままの大力となった。それは彼の二十歳前後の頃のことだったというが、今はもう八十余りになって、以前の気力はすこしもない。何でも五十ばかりの時に、元授かった場所に行ってその品物を女神に返したというが、それがいかなる物であったかは、けっして人に語らぬそうである。これは宮本君という人が直接に彼から聞いた話である。