一一五 金沢村の老狩人が、白見山に狩りに行って山中で夜になった。家に帰ろうとして沢を来かかると、突然前に蝋《ろう》燭《そく》が三本、ほとほとと燃えて現われた。立ち止まって見ていると、その三本がしだいに寄り合ってふっと一本になり、焔がやや太く燃え立ったと思うと、その火の穂から髪を乱した女の顔が現われて、薄気味悪く笑った。この狩人が、やっと自分に帰ったのは夜半であったそうな。たぶん狐《こ》狸《り》のしわざだろうということであった。大正二年の秋のことで、この話はこの地方の小林区署長が自身金沢村で聞いた話だと前置きして語ったものである。