一一八 小槌の釜渡りの勘蔵という人が、カゲロウの山で小屋がけして泊っていると、大嵐がして小屋の上に何かが飛んで来てとまって、あいあいと小屋の中へ声をかけた。勘蔵が返事をすると、あい東だか西だかとまた言った。どう返事をしてよいかわからぬのでしばらく考えていると、あいあい東だか西だかと、また木の上で問い返した。勘蔵は、なに東も西もあるもんかと言いざま二つ弾丸《だま》をこめて、声のする方を覗《うかが》って打つと、ああという叫び声がして、沢鳴りの音をさせて落ちて行くものがあった。その翌日行ってみたが何のあともなかったそうである。何でも明治二十四、五年の頃のことだという。