一二四 村々には諸所に子供らが恐れて近寄らぬ場所がある。土淵村の竜ノ森もその一つである。ここには柵に結ばれた、たいそう古い栃の樹が数本あって、根元には鉄の鏃《やじり》が無数に土に突き立てられている。鏃は古く、多くは赤く錆びついている。この森は昼でも暗くて薄気味が悪い。中を一筋の小川が流れていて、昔村の者、この川でいわなに似た赤い魚を捕り、神様の祟《たた》りを受けたと言い伝えられている。この森に棲《す》むものは蛇の類などもいっさい殺してはならぬといい、草花のようなものもけっして採ってはならなかった。人もなるべく通らぬようにするか、余儀ない場合には栃の樹の方に向かって拝み、神様の御機嫌にさわらぬようにせねばならぬ。先年死んだ村の某という女が、生前と同じ姿でこの森にいたのを見たという若者もあった。また南沢のある老人は夜更けにこの森の傍を通ったら、森の中に見知らぬ態《なり》をした娘が二人でぼんやりと立っていたという。竜ノ森ばかりでなく、この他にも同じような魔所といわれる処がある。土淵村だけでも熊野ノ森の堀、横道の洞、大洞のお兼塚などすくなくないし、また往来でも高室のソウジは恐れて人の通らぬ道である。