一二六 狩人の話では早池峰山の主は、三面大黒といって、三面一本脚の怪物だという。現在の早池峰山の御本尊は黄金像の十一面観世音であって、大黒様のお腹仏だといい伝えている。その大黒様の像というのは、五、六寸ほどの小さな荒削りの像である。早池峰山の別当寺を大黒山妙泉寺と称えるのも、この大黒様と由縁《いわれ》があるからであろうとは、妙泉寺の別当の跡《あと》取《と》りである宮本君の言であった。この人の母が若かった時代のことというが、寺男に酒の好きな爺がいて、毎朝大黒様に御神酒を献げる役目であった。いつもその御神酒を飲みたいものだと思っては供えに行くのであったが、ある朝大黒様が口をきかれ、俺はええからお前たちが持って行って飲めと言われた。爺は驚いて仲間の者のいる処へ逃げ帰ってこのことを告げたが、皆はボガ(虚言)だべと言って本当にしなかった。ためしに別の男が御神酒を持って行って供えることになったが、再びその時も大黒様は口をきかれて、俺が飲んだも二つないから、そっちへ持って行って飲めと言われたという。物言い大黒といって、たいへんな評判だったそうな。