一七八 橋野の沢檜川の川下には、五郎兵衛淵という深い淵があった。昔この淵の近くの大家の人が、馬を冷やしにそこへ行って、馬ばかり置いてちょっと家に帰っているうちに、淵の河童《かつぱ》が馬を引き込もうとして、自分の腰に手綱を結えつけて引っ張った。馬はびっくりしてその河童を引きずったまま、厩にはいり、河童はしかたがないので馬《うま》槽《ふね》の下に隠れていた。家の人がヤダ(飼料)をやろうとして馬槽をひっくりかえすと、中に河童がいて大いにあやまった。これからはけっしてもうこんな悪戯をせぬから許してくださいといって詫び証文を入れて淵へ帰って行ったそうだ。その証文は今でもその大家の家にあるという。