二七一 正月十五日の晩にはナモミタクリ、またはヒカタタクリともいって、瓢箪の中に小刀を入れてからからと振り鳴らしながら、家々を廻ってあるく者がある。タクリというのは剥ぐという意味の方言で、年じゅう懶《なま》けて火にばかり当たっている者の両脛などにできている紫色のヒカタ(火斑)を、この小刀をもって剥いてやろうと言って来るのである。これが門の口で、ひかたたくり、ひかたたくりと呼ばると、そらナモミタクリが来たと言って、娘たちに餠《もち》を出して詫びごとをさせる。家で大事にされている娘などには、時々はこのヒカタタクリにたくられそうな者があるからである。