□遠野家1階ロビー
「有彦ん家か——————って、なぜに?」
さしたる理由もなく有彦の家に行くなんてどんな風の吹き回しだろう。
これが放課後だったら暇つぶしに行くのもアリなんだけど、なぜに朝から乾家に?
さしたる理由もなく有彦の家に行くなんてどんな風の吹き回しだろう。
これが放課後だったら暇つぶしに行くのもアリなんだけど、なぜに朝から乾家に?
「……ま、たまにはいっか」
こういう突発的な発想があるから人生は面白い。
□乾家
というわけでやってきました、嬉し恥ずかし乾有彦くんのお家です。
というわけでやってきました、嬉し恥ずかし乾有彦くんのお家です。
呼び鈴を押す。
ぴんぽーん、とおなじみの音が鳴り響いてから数分経って、ギギギギギ、とお化け屋敷のように玄関の扉が開いた。
「だれ」
ドアから半分だけ顔を出して、その女の人は不機嫌そうにそう言った。
ぴんぽーん、とおなじみの音が鳴り響いてから数分経って、ギギギギギ、とお化け屋敷のように玄関の扉が開いた。
「だれ」
ドアから半分だけ顔を出して、その女の人は不機嫌そうにそう言った。
「おはようございますイチゴさん。イチゴさんが出るってコトは、有彦のヤツはもう出ちゃいました?」
「あ———? あのバカは昨日から帰ってきてないけど———」
女の人はむ?と首をかしげると、ようやくドアから出てきてくれた。
「あ———? あのバカは昨日から帰ってきてないけど———」
女の人はむ?と首をかしげると、ようやくドアから出てきてくれた。
【一子】
「……なんだ、誰かと思えば有間じゃない。カンベンしてくれないか、こっちは三日ぶりにやっと眠れるってトコなんだよ」
「睡眠中起こしてしまってすみません。お久しぶりです、イチゴさん」
「ん。そっちも相変わらず半端な好青年ぶりでけっこう」
ふう、と紫煙を吹いて、見た目では判らないぐらいの微かなレベルでイチゴさんは笑った。
「睡眠中起こしてしまってすみません。お久しぶりです、イチゴさん」
「ん。そっちも相変わらず半端な好青年ぶりでけっこう」
ふう、と紫煙を吹いて、見た目では判らないぐらいの微かなレベルでイチゴさんは笑った。
———この人は乾一子さん。
乾、という苗字が示す通り、有彦のお姉さんである。
職業は不明。有彦曰く、
乾、という苗字が示す通り、有彦のお姉さんである。
職業は不明。有彦曰く、
□有彦の部屋
【有彦】
「おい遠野。高田くんとモノポリーしてるところ悪いんだが、ちょっと話を聞いてくれ」
「あいよ、なに」
「実はオレさ、小学生の頃は姉貴のこと刑事だって思ってたんだ」
「へえ。イチゴさん刑事さんじゃなかったんだ。それは、ちょっと意外だな」
「ああ。んで中学生の頃までは小説家だって思ってんだけどよも、それも違った」
「へえ、イチゴさん小説家でもなかったんだ。第二候補も潰れたワケか。……となると、ホントのトコロはどうなんだよ」
「おい遠野。高田くんとモノポリーしてるところ悪いんだが、ちょっと話を聞いてくれ」
「あいよ、なに」
「実はオレさ、小学生の頃は姉貴のこと刑事だって思ってたんだ」
「へえ。イチゴさん刑事さんじゃなかったんだ。それは、ちょっと意外だな」
「ああ。んで中学生の頃までは小説家だって思ってんだけどよも、それも違った」
「へえ、イチゴさん小説家でもなかったんだ。第二候補も潰れたワケか。……となると、ホントのトコロはどうなんだよ」
「んー、俺が高校にいるまではプロ雀士だと睨んでるんだが、おまえはどう思う?」
「さあ。それよりさ、さりげなく俺の株がめるの止めない? モノポリーってそういうゲームじゃないよ、たぶん」
「さあ。それよりさ、さりげなく俺の株がめるの止めない? モノポリーってそういうゲームじゃないよ、たぶん」
□乾家
……なんて話があったっけ。
結局なにが言いたいかというと、イチゴさんが何をしている人かというのは永遠の謎というコトである。
結局なにが言いたいかというと、イチゴさんが何をしている人かというのは永遠の謎というコトである。
【一子】
「んで、今日はどったの。うちのバカ、またなんかしでかしたワケ?」
「いえ、何処かで何かしでかしているのは確実だと思うんですけど、とりあえずこっちに実害はないです。……ま、たまには連れ立って学校に行くのもいいかな、と来てみただけなんですが」
「そ。悪いね、アイツに付き合わせちまって。アイツが我が侭言うのは有間だけだからさ、飽きずに付き合ってやってくれないか」
「あはは、飽きるってコトはまず無いですね。
———で、有彦はどのあたりにいるんですか?」
「んで、今日はどったの。うちのバカ、またなんかしでかしたワケ?」
「いえ、何処かで何かしでかしているのは確実だと思うんですけど、とりあえずこっちに実害はないです。……ま、たまには連れ立って学校に行くのもいいかな、と来てみただけなんですが」
「そ。悪いね、アイツに付き合わせちまって。アイツが我が侭言うのは有間だけだからさ、飽きずに付き合ってやってくれないか」
「あはは、飽きるってコトはまず無いですね。
———で、有彦はどのあたりにいるんですか?」
「さあ? 昨日からダチのところに泊まりこんでるって話。学校には行くように言いつけてあっから、もしサボッてたら教えてちょうだい」
了解、と頷く。
「————————————」
イチゴさんはじーっ、とこちらを眺めた後。
「——————有間、お手」
と、簡潔なセリフを言った。
「なんですか?」
つい条件反射で手を差し出す。
差し出した手の平に、トン、と指を置くイチゴさん。
了解、と頷く。
「————————————」
イチゴさんはじーっ、とこちらを眺めた後。
「——————有間、お手」
と、簡潔なセリフを言った。
「なんですか?」
つい条件反射で手を差し出す。
差し出した手の平に、トン、と指を置くイチゴさん。
「やる。あたしが暇になったら遊びに来な。メシおごったげるから」
じゃあね、と残してイチゴさんはドアの向こうへ消えて行った。
「………………」
一人残されて、じっと手の平を見る。
手の平には半分ほど使われて折れ曲がった、山吹色の絵の具が置かれていた。