□教室
「おはよーっす」
元気があるんだかないんだか分からない挨拶をして教室に入る。
教室には女子の姿はなく、何人かの男子が真ん中で集まって何やら作業をしていた。
「おっ、増援が出現したぞみんな!」
うずくまっていた一人が顔をあげる。……一際ガタイのいいそいつは柔道部のエースである吉良義信くんだった。
元気があるんだかないんだか分からない挨拶をして教室に入る。
教室には女子の姿はなく、何人かの男子が真ん中で集まって何やら作業をしていた。
「おっ、増援が出現したぞみんな!」
うずくまっていた一人が顔をあげる。……一際ガタイのいいそいつは柔道部のエースである吉良義信くんだった。
「あ、なにダレよ?」
吉良につられて次々と顔をあげる謎の集団。
「なんだ遠野じゃん。こんな時間にくるなんてチミもヒマだネ」
「おーっす、早いな遠野」
「なによぅ、それじゃあたしもヒマだっていうの!?」
「だからさー、こういうのは絵心のあるヤツに任せないとダメなんだってば」
「いや、何を隠そう小学校の頃銅賞をとったコトあるぜオレ」
「ヒマっつーか物好きなんだってば。あと女どもが薄情なだけ」
吉良につられて次々と顔をあげる謎の集団。
「なんだ遠野じゃん。こんな時間にくるなんてチミもヒマだネ」
「おーっす、早いな遠野」
「なによぅ、それじゃあたしもヒマだっていうの!?」
「だからさー、こういうのは絵心のあるヤツに任せないとダメなんだってば」
「いや、何を隠そう小学校の頃銅賞をとったコトあるぜオレ」
「ヒマっつーか物好きなんだってば。あと女どもが薄情なだけ」
「おい、手が空いているヤツは乾を黙らせておけって言っただろ」
「違うって、体育会系は戦力外だからこういう端っこの仕事を押し付けられてるだけだってば」
「その理屈でいうと、どっちつかずの遠野はなんでも屋ってコトになるのか?」
「違うって、体育会系は戦力外だからこういう端っこの仕事を押し付けられてるだけだってば」
「その理屈でいうと、どっちつかずの遠野はなんでも屋ってコトになるのか?」
「……いや、そんな都合のいいものになった覚えはないけど……」
最後の声に答えて、ほう、とため息をついた。教室に集まった彼らは見事なほど統制が取れていない。
吉良を含めて六人のゴッツイ男どもは、ペンキやらマーカーやらで武装していた。
「……なんだ、大の男が五、六人集まって何をしているかと思えば怪しげな看板を作ってるだけか」
【有彦】
「だーかーらー、色使いはオレに任せろってば! いまこそ不遇の天才乾有彦のすげえ所見せてやっから。いやもう、マジで夢見んぞオマエら!」
そして、ピンク色のペンキ缶を片手に騒いでいるこいつは何者だろう。
そして、ピンク色のペンキ缶を片手に騒いでいるこいつは何者だろう。
「あー、じゃー乾くんは死なないとダメだねー。生きてるうちは認められないんだよ、天才って」
もぐもぐ、という擬音。
見れば教室の隅には鏡餅のようなシルエットの男子がいた。……暇人なのか、高田くんは菓子パンを食べながらむさ苦しい男の集団を眺めている。
【有彦】
「———よし絶筆! あとはここでこう、辞世の句とか入れちゃうワケよ。……やれ買うな、ぱんだ笹食う手毬飲む……ありひこ、と」
「うわあ、乾がまたワケ分からねえラクガキしてるぅー!」
「ひいい、止めろー! イヌイを止めろー!」
「あー、それはたしかに夢見そうだねー」
「うわあ、乾がまたワケ分からねえラクガキしてるぅー!」
「ひいい、止めろー! イヌイを止めろー!」
「あー、それはたしかに夢見そうだねー」
【有彦】
「よし、ザッツパーフェクト! 北斎レベルだ、よもや誰もこれが文化祭の看板とは思うまい!」
「いやあ、文化祭以前に看板ですらないね、これは」
「ああもう、いいからおまえが夢見てろーっ!」
「いやあ、文化祭以前に看板ですらないね、これは」
「ああもう、いいからおまえが夢見てろーっ!」
【有彦】
がつん、といい音がして、有彦が宙を舞った。
スローモーションで倒れていく悪友を見て、ああクリティカルだな、と冷静に判断する。
「消せ消せ、そんなの白ペンキで消しちまえ! おら遠野、ヒマならおまえも手伝えっての! 看板の締め切り今日のホームルームまでなんだとよー!」
ガタイがいいだけあって吉良の声はよく響く。隣の教室はおろか、二つ先の教室にまで聞こえてそうな大声だ。
まあ、もとより何やら楽しそうではあるから手伝おうとは思っていたのだ。
よし、と腕まくりして集団に加わっていく。
ガタイがいいだけあって吉良の声はよく響く。隣の教室はおろか、二つ先の教室にまで聞こえてそうな大声だ。
まあ、もとより何やら楽しそうではあるから手伝おうとは思っていたのだ。
よし、と腕まくりして集団に加わっていく。
「言われなくても茶々いれるって。あ、けど昨日もこんなコトしてなかったっけ、うちら」
「おうよ、昨日のは速攻リテイク食らったぜ」
「そうなのか? 昨日のってけっこういい出来だったんじゃないか。実行委員の連中も手放しで誉めてたしさ」
「それがなー、最後に朱をいれて画面を引き締める、なんて言い出したバカがいてよ。ったく、選挙のダルマじゃねえっての」
ぶつぶつと文句を言う吉良義信。
……なるほど、どうして朝一番から有彦がいるのか合点がいった。ようするにバツ当番だったわけだ。
「おうよ、昨日のは速攻リテイク食らったぜ」
「そうなのか? 昨日のってけっこういい出来だったんじゃないか。実行委員の連中も手放しで誉めてたしさ」
「それがなー、最後に朱をいれて画面を引き締める、なんて言い出したバカがいてよ。ったく、選挙のダルマじゃねえっての」
ぶつぶつと文句を言う吉良義信。
……なるほど、どうして朝一番から有彦がいるのか合点がいった。ようするにバツ当番だったわけだ。
「んー、吉良坊、結局コレどーするのよう。客寄せがメインなら、こうズバーッと一点趣味でいったほうがいいと思うワ、あたし」
このメンバーの中で唯一絵心のありそうな常磐くんがしなを作る。
……こんなんでも吉良と同じく柔道部だっていうから世界は広い。
このメンバーの中で唯一絵心のありそうな常磐くんがしなを作る。
……こんなんでも吉良と同じく柔道部だっていうから世界は広い。
「あー、そういうのは俺には分からねえって。
っと、ちょうどいい。遠野はどうすればいいと思う?」
「んー、志貴くんなら任せて安心ねー。ね、どんな感じに仕上げたらいいと思う? メイドさん? それとも割烹着かしラ?」
「———あのさ。どうしてそうピンポイントな質問するわけ、おまえ」
なぜかしらんー、としなを作る常磐くん。
っと、ちょうどいい。遠野はどうすればいいと思う?」
「んー、志貴くんなら任せて安心ねー。ね、どんな感じに仕上げたらいいと思う? メイドさん? それとも割烹着かしラ?」
「———あのさ。どうしてそうピンポイントな質問するわけ、おまえ」
なぜかしらんー、としなを作る常磐くん。
「…………まあ、いいけど。そうだな、どっちかっていうと割烹着のがいいんじゃないか。落ちつける感じがするし」
「ははあ、志貴くん和風びいきっていうのはホントだったわけネー」
嬉しげに言って、常磐くんはシャッシャッとハケを振るっていく。メインは彼に任せて、俺たちは文字のレタリングを仕上げる事にした。
「ははあ、志貴くん和風びいきっていうのはホントだったわけネー」
嬉しげに言って、常磐くんはシャッシャッとハケを振るっていく。メインは彼に任せて、俺たちは文字のレタリングを仕上げる事にした。
……いや、メイド服も好きなんだけどね。