*s57
□屋敷の廊下
———男は度胸、ここは勢いに任せて入ってしまえ!
あ。琥珀さん、ゲームしてる。
□琥珀の部屋
【琥珀】
「あれ、志貴さん!?」
ようやく来客に気が付いたのか、琥珀さんはコントローラーを置いていそいそとドアまでやってきた。
【琥珀】
「あれ、志貴さん!?」
ようやく来客に気が付いたのか、琥珀さんはコントローラーを置いていそいそとドアまでやってきた。
「も、申し訳ありませんっ。もしかして何度もノックをしてくださいました?」
「あ、琥珀さんが謝る必要はないって。俺の方こそ勝手に入っちゃってごめん」
ぺこり、と頭をさげてちらりと部屋の奥に視線を送る。
「ねえ琥珀さん。アレ、なに」
「あ、琥珀さんが謝る必要はないって。俺の方こそ勝手に入っちゃってごめん」
ぺこり、と頭をさげてちらりと部屋の奥に視線を送る。
「ねえ琥珀さん。アレ、なに」
【琥珀】
「———あ、あはは、なんでしょうね、一体」
露骨に目を逸らして誤魔化す琥珀さん。
……いつも笑顔でさらりとかわす琥珀さんらしくない。もしかして……
「———あ、あはは、なんでしょうね、一体」
露骨に目を逸らして誤魔化す琥珀さん。
……いつも笑顔でさらりとかわす琥珀さんらしくない。もしかして……
「別にゲームをするのは普通だと思うよ。最近は女の子でもゲーム好きな子多いし」
「な、なにをおっしゃられるんですか志貴さん! わたしは遠野家の使用人、そのような俗な娯楽に興じるワケがないじゃないですか!」
「ありゃ。それはいい心がけだね。さすが琥珀さんだ。ようするに、アレだ。ゲーム機がみつかったから試しに遊んでいただけってコト?」
「な、なにをおっしゃられるんですか志貴さん! わたしは遠野家の使用人、そのような俗な娯楽に興じるワケがないじゃないですか!」
「ありゃ。それはいい心がけだね。さすが琥珀さんだ。ようするに、アレだ。ゲーム機がみつかったから試しに遊んでいただけってコト?」
「はい、実に志貴さんの推測通りです。槙久さまのお部屋にあったものですから、どんな物なのかなー、と試しに遊んでみただけなんです。その、あくまで試しなんですよ?」
うんうんと頷く。
うんうんと頷く。
「そっか。それじゃあアレ、貰っていい?」
【琥珀】
「お断りします」
神速で断言する琥珀さん。
「へー」
じーっと見つめてみる。
【琥珀】
またも視線を逸らす琥珀さん。……もうバレバレなのに必死に誤魔化そうとする仕草が可愛い。
「琥珀さん、ゲームなら俺も好きだよ。よく有彦のところで対戦するし、夏休みなんて三日ぐらい徹夜でゲームするし」
【琥珀】
「え、ホントですか!? 志貴さん、無趣味のように見えて大のゲーム好きだったんですね!」
「————ん、まあ好きな部類に入ると思うよ」
……まあ、有彦も俺も重度のジャンキーというわけではないんだけど、ここはそういうコトにしておこう。
「————ん、まあ好きな部類に入ると思うよ」
……まあ、有彦も俺も重度のジャンキーというわけではないんだけど、ここはそういうコトにしておこう。
【琥珀】
「なんだ、そういうコトなら早く言ってくだされば良かったのに! やりました、やっとお屋敷でゲームをしてくれる人をゲットです!」
ぱん、と両手を合わせて喜んでいる所を見ると、よっぽど同好の士に飢えていたみたいだ。
「なんだ、そういうコトなら早く言ってくだされば良かったのに! やりました、やっとお屋敷でゲームをしてくれる人をゲットです!」
ぱん、と両手を合わせて喜んでいる所を見ると、よっぽど同好の士に飢えていたみたいだ。
【琥珀】
「ね、志貴さん時間はありますか? もしお暇でしたら是非お付き合いください!」
がしっ、とこっちの手を掴む琥珀さん。
暇も何も、対戦するまでは放しませんよー、と目が言っている。
「ね、志貴さん時間はありますか? もしお暇でしたら是非お付き合いください!」
がしっ、とこっちの手を掴む琥珀さん。
暇も何も、対戦するまでは放しませんよー、と目が言っている。
「あい、望む所です。あ、けどこれって———」
「はい、秋葉さまには内緒です。見つかってしまったらまたゲーム機ごと捨てられちゃいますから」
「はい、秋葉さまには内緒です。見つかってしまったらまたゲーム機ごと捨てられちゃいますから」
さあさあ、とテレビの前まで引っ張られていく。
……ふうむ。秋葉と翡翠はやっぱりゲーム否定派だったわけか……
……うまい。
そんな予感はしていたんだけど、シャレにならないぐらい琥珀さんは巧かった。
そんな予感はしていたんだけど、シャレにならないぐらい琥珀さんは巧かった。
画面には二人の学生が向かい合っている。
琥珀さんはオールバックの髪型をした男子生徒、こっちは棒を持った拳法使いの男子生徒。
二人の学生はテヤテヤとパンチだのキックだのを繰り出しているのだが、時折ピストルだのショットガンだのを乱射する。
ゲーム名はブラッディロワイヤル3、略してBR3だ! ……ぶっちゃけて言うと、変身獣化格闘ゲームの三作目である。
ゲーム名はブラッディロワイヤル3、略してBR3だ! ……ぶっちゃけて言うと、変身獣化格闘ゲームの三作目である。
「はい、開幕の一撃いただきました!」
ラウンド開始直後、琥珀さんの操る学生が怪しい投げ技を使う。
ひょーい、と浮かされるこちらの学生。
その後、琥珀さんの情け容赦ないコンボが炸裂した。
「うわっ、ちょっと待て、なんだそのエゲツない連続技はー!」
「うふふ、一度浮かしたら生きて地上には返しません。わたし、残酷でしてよ!」
ラウンド開始直後、琥珀さんの操る学生が怪しい投げ技を使う。
ひょーい、と浮かされるこちらの学生。
その後、琥珀さんの情け容赦ないコンボが炸裂した。
「うわっ、ちょっと待て、なんだそのエゲツない連続技はー!」
「うふふ、一度浮かしたら生きて地上には返しません。わたし、残酷でしてよ!」
カチャカチャカチャカチャ。
まるでギターの六弦連続早弾きだ。
琥珀さん指は独立した生き物のようにコントローラーを滑っていく。
……こっちはハンデという事でレバーを使わせてもらっているのにまるで勝負にならない。
まるでギターの六弦連続早弾きだ。
琥珀さん指は独立した生き物のようにコントローラーを滑っていく。
……こっちはハンデという事でレバーを使わせてもらっているのにまるで勝負にならない。
結局、その勝負は一撃も攻撃を繰り出すコトなく敗北した。
「……汚い。琥珀さん、このゲームやりこんでるだろ!」
これが有彦なら“答える必要はない”とか言ってくるんだろうけど、琥珀さんはそんなベタな切り返しはしてこない。
「そんなコトないですよー。これ、発売日が今日ですから。夕食の買い出しの時に買ってきて、かれこれ一時間ほどしかやってません」
話しつつもカチャカチャと音速でコントローラーを操る琥珀さん。
……またも俺の学生は一度も地に足をつけるコトなく秒殺された。っていうか受け身ぐらいないのかこのゲームっ。
これが有彦なら“答える必要はない”とか言ってくるんだろうけど、琥珀さんはそんなベタな切り返しはしてこない。
「そんなコトないですよー。これ、発売日が今日ですから。夕食の買い出しの時に買ってきて、かれこれ一時間ほどしかやってません」
話しつつもカチャカチャと音速でコントローラーを操る琥珀さん。
……またも俺の学生は一度も地に足をつけるコトなく秒殺された。っていうか受け身ぐらいないのかこのゲームっ。
「あ、このゲームの場合受け身はあまり意味はありませんね。浮かされたら半分は覚悟してください。どうしてもイヤでしたら変身すれば一度だけ回避できますよ」
「へえ。変身ってこれ?」
ボタン一発でビカカァ、と画面が光って変身する学生。
……てっきり学ランを着たモグラになるかと思えば、学生服から体操服に変わるだけだった。
「へえ。変身ってこれ?」
ボタン一発でビカカァ、と画面が光って変身する学生。
……てっきり学ランを着たモグラになるかと思えば、学生服から体操服に変わるだけだった。
「うわ、地味」
「そんな事ないですよー、キャラが女生徒ならスピードが二倍になるんです。ほら、こんな感じ」
いつのまにかキャラチェンジしていたのか、陸上部所属の女生徒でぶいぶい言わしている琥珀さん。
「あ、この娘のモーション綺麗ですね。しゃがみ動作なんて翡翠ちゃんみたいでかわいー!」
体操服姿になった女生徒が縦横無尽に駆けまわっている。
……なんていうか、琥珀さんが動かすと同じゲームなのにストリートファイターとミュータントほどの違いがあるように見えるのは気のせいか。
「そんな事ないですよー、キャラが女生徒ならスピードが二倍になるんです。ほら、こんな感じ」
いつのまにかキャラチェンジしていたのか、陸上部所属の女生徒でぶいぶい言わしている琥珀さん。
「あ、この娘のモーション綺麗ですね。しゃがみ動作なんて翡翠ちゃんみたいでかわいー!」
体操服姿になった女生徒が縦横無尽に駆けまわっている。
……なんていうか、琥珀さんが動かすと同じゲームなのにストリートファイターとミュータントほどの違いがあるように見えるのは気のせいか。
「……確かにすごい……って、なんかこう見ると対戦格闘っていうより運動会みたいだ」
「はい、今回の売り文句は体育祭ですからね。もう孤島でのサバイバルは飽きたので、学校に戻って体育祭で世界一を決めるってストーリィです」
……体育祭で決められる世界一ってなんだろう。
「はい、今回の売り文句は体育祭ですからね。もう孤島でのサバイバルは飽きたので、学校に戻って体育祭で世界一を決めるってストーリィです」
……体育祭で決められる世界一ってなんだろう。
「ええい、とにかく対戦物は止めましょう。もうちょっとこっちに勝ち目があるゲームにしてください」
「そうですか? それじゃあレースゲームなんてどうでしょう」
はい、と琥珀さんが取り出したゲームはアルファベットで三文字のゲームだった。
「そうですか? それじゃあレースゲームなんてどうでしょう」
はい、と琥珀さんが取り出したゲームはアルファベットで三文字のゲームだった。
「ぶっ……! こ、これはレースゲームじゃありません! そりゃあ車だのバイクだの色々乗りますけど、基本はボスの命令に従ってムチャクチャやる犯罪ゲーです!」
「はあ。志貴さんはグランドセ○トオートはお嫌いですか?」
「同じ宅配ものならペーパー○ーイあたりで満足してください!」
ちぇっ、と大人しく引き下がる琥珀さん。
「はあ。志貴さんはグランドセ○トオートはお嫌いですか?」
「同じ宅配ものならペーパー○ーイあたりで満足してください!」
ちぇっ、と大人しく引き下がる琥珀さん。
……そんなこんなで、琥珀さんとの(琥珀さんが一方的に)楽しいゲームタイムが展開していった。
終わってみれば一度も勝利らしきものはなかったけど、まあ、これはこれで楽しかったと思う。
なにより子供のようにはしゃぐ琥珀さんと時間を共有できただけで、とてもとても意義があったと思うのだ————
終わってみれば一度も勝利らしきものはなかったけど、まあ、これはこれで楽しかったと思う。
なにより子供のようにはしゃぐ琥珀さんと時間を共有できただけで、とてもとても意義があったと思うのだ————