休日をあてもなく好き勝手過ごしているうちに日没が近づいていた。
「いやー、たまにはこういうのもいいなー」
などと気の抜けまくった独白をしたりする。
……さて、あとしばらくしたら夕食になるんだけど、せっかくの休日だ。今日ぐらいは少し趣向を変えてもいいかもしれない。
「いやー、たまにはこういうのもいいなー」
などと気の抜けまくった独白をしたりする。
……さて、あとしばらくしたら夕食になるんだけど、せっかくの休日だ。今日ぐらいは少し趣向を変えてもいいかもしれない。
「よし、外に食べに行こう!」
琥珀さんが作ってくれる夕食に飽きるなんて事はないけど、たまに男の子は外でガツガツした物が食べたくなるのだ。
「……さて、それじゃあ何処に行こうかな」
どうせ行くのなら琥珀さんが作らないような料理を出す店だろう。
となると———
琥珀さんが作ってくれる夕食に飽きるなんて事はないけど、たまに男の子は外でガツガツした物が食べたくなるのだ。
「……さて、それじゃあ何処に行こうかな」
どうせ行くのなら琥珀さんが作らないような料理を出す店だろう。
となると———
「……そういえば大帝都で千円の食い放題をやってるって話だったな……」
大帝都は隣街でも有名な焼肉屋さんだ。
ほぼ原価じゃないのかこれ、と思わせる低価格と一級品の肉の質が売りのパラダイス。
電車に乗って隣街まで行かなければならない、というのはマイナスだがそれを補ってあまりある味と値段を提供します。
大帝都は隣街でも有名な焼肉屋さんだ。
ほぼ原価じゃないのかこれ、と思わせる低価格と一級品の肉の質が売りのパラダイス。
電車に乗って隣街まで行かなければならない、というのはマイナスだがそれを補ってあまりある味と値段を提供します。
「———決めた、今夜はごちそうだー!」
財布を持って走り出す。
許してくれ琥珀さん、年頃の男の子は上品な料理より、こうガツガツしたワイルドな味が恋しくなる時があるんですー!
□町
□町
電車に乗って隣街に出た瞬間。
「—————————あれ?」
目が疲れていたのか、街には色というものがなかった。
「ちょっ、ちょっと待った————」
ごしごしと目蓋をこする。
□町
電車に乗って隣街に出た瞬間。
「—————————あれ?」
目が疲れていたのか、街には色というものがなかった。
「ちょっ、ちょっと待った————」
ごしごしと目蓋をこする。
□町
□町
「あ、戻った」
何度か瞬きをしているうちに街はいつも通りの景色になった。
「……ほ」
思わず安堵の息を洩らす。
「あ、戻った」
何度か瞬きをしているうちに街はいつも通りの景色になった。
「……ほ」
思わず安堵の息を洩らす。
だって、いくらなんでもさっきのはない。
なんていうか、控え目にいってもこの街がハリボテで出来た映画のセットにしか見えなかったぐらいなんだから。
なんていうか、控え目にいってもこの街がハリボテで出来た映画のセットにしか見えなかったぐらいなんだから。
□町
「さーて、食うぞー!」
ふふふ、とぎゅるぎゅる鳴るお腹を抱えて一路焼肉・大帝都を目指す。
……そういえば大帝都は月に一度の割合で食べ放題をやるのだが、その度に記録をうちたてた人の名前を店内に飾っている。
そこでいまだ燦然と輝くあおざきあおこ・とうこ、という名前があるのは、きっと他人の空似だろう。
「さーて、食うぞー!」
ふふふ、とぎゅるぎゅる鳴るお腹を抱えて一路焼肉・大帝都を目指す。
……そういえば大帝都は月に一度の割合で食べ放題をやるのだが、その度に記録をうちたてた人の名前を店内に飾っている。
そこでいまだ燦然と輝くあおざきあおこ・とうこ、という名前があるのは、きっと他人の空似だろう。
そうして、隣街のさらに奥へと足を踏み入れた瞬間。
□町
【殺人鬼】
人込みの中に、ヤツの姿を認めてしまった。
人込みの中に、ヤツの姿を認めてしまった。
「———————!」
舞いあがっていた心が落下する。
件の殺人鬼。
噂でしか聞いていなかったヤツは、確かに目の前にいて笑っている。
「ま、待て———!」
ヤツはさらに奥へ。
……大急ぎで先を作っているあの子の苦労を台無しにするように、先へ先へと進んでしまった。
歩いていては間に合わない。
先に急いでは———ゆっくり行かなければいけない、と分かっていても止められない。
ただ夢中で走り出す。
そうしてその結果、
街は凍りついたように停止し、そして———�
音もなく崩れ出した。
メガネが落ちた。
どろどろと崩れていく。
足元はすでに融解しており、流れ爛れていく建物は果てしなく有機的。
血管こそないものの、まるで生き物の体内のよう。
「っ……まず、い———!」
もう足首まで沈んでいる。
……そうだ、ここに来てはいけなかった。
ここは世界の果て。
もともと箱庭のように狭いこの世界において、まともに存在できるのは自分の街だけだったのに。
足元はすでに融解しており、流れ爛れていく建物は果てしなく有機的。
血管こそないものの、まるで生き物の体内のよう。
「っ……まず、い———!」
もう足首まで沈んでいる。
……そうだ、ここに来てはいけなかった。
ここは世界の果て。
もともと箱庭のように狭いこの世界において、まともに存在できるのは自分の街だけだったのに。
「くそ、またコレなのかよ……っ!」
すでに沈下は腰にまでおよんでいる。
こうなってしまっては手遅れだ。
俺は世界の綻びに巻きこまれて終了する。
だが、その前に——�
「……また……またって、なんだ」
無意識のうちにこぼした罵倒。
自分は———遠野志貴は、以前にもこんな終わりを迎えていたという事だろうか。
すでに沈下は腰にまでおよんでいる。
こうなってしまっては手遅れだ。
俺は世界の綻びに巻きこまれて終了する。
だが、その前に——�
「……また……またって、なんだ」
無意識のうちにこぼした罵倒。
自分は———遠野志貴は、以前にもこんな終わりを迎えていたという事だろうか。
【殺人鬼】
「———そうだ。もっとも、目覚めれば忘れてしまうがな」
ヤツが笑う。
「だがこれでは意味をなさん。これでは決定権は貴様にあるまま戻るだけだ」
なに、を——�
「俺を殺したいのなら、相応しい場所で呼べ」
ヤツが笑う。
「だがこれでは意味をなさん。これでは決定権は貴様にあるまま戻るだけだ」
なに、を——�
「俺を殺したいのなら、相応しい場所で呼べ」
殺人鬼は崩壊に巻き込まれて消滅した。
「——————あ」
そうして自分も呑まれていく。
だが世界の崩壊は一時のものだ。世界にとってこの傷は致命傷ではありえない。
故に、救急箱を持ってあの子がやってくるかぎり、この綻びは正しく繕われる。
こっちはえらく気楽なもんだ。
こうして意識が落ちて眠りについてしまえば、目覚めた時にはすべて元通りになっているっていうんだから———