□遠野家1階ロビー
————よし、一人で学校に行ってしまおう。
————よし、一人で学校に行ってしまおう。
「……っていうか、秋葉の学校は浅女なんだから一緒に登校なんてできるもんか」
秋葉は車で隣の県の女学院。
自分は徒歩三十分の共学である。
秋葉は車で隣の県の女学院。
自分は徒歩三十分の共学である。
□屋敷の門
秋葉より一足先に屋敷を出る。
秋葉より一足先に屋敷を出る。
【翡翠】
「志貴さま、忘れ物はありませんか?」
見送りに来てくれた翡翠が、珍しくそんな事を尋ねてきた。
「忘れ物……? いや、準備は万全だと思うけど」
一応鞄を開けて中を確認する。
筆記用具と学生証、今日の授業分のノートと、ちゃっかりナイフを忍ばせているあたり自分らしい。
見送りに来てくれた翡翠が、珍しくそんな事を尋ねてきた。
「忘れ物……? いや、準備は万全だと思うけど」
一応鞄を開けて中を確認する。
筆記用具と学生証、今日の授業分のノートと、ちゃっかりナイフを忍ばせているあたり自分らしい。
「忘れ物はないみたいだ。それじゃ行ってくるよ。もしかしたら帰りは遅くなるかもしれないから、その時は心配しないでくれ」
【翡翠】
「はい、文化祭の準備ですね。お泊まりになられるようでしたらお電話をいただければ助かります」
「オッケー。それじゃ行ってくる……!」
「オッケー。それじゃ行ってくる……!」
【翡翠】
丁寧に送り出してくれる翡翠に背を向けて、いつもの坂道へと駆け出した。
□繁華街
坂を下りて住宅街を越えて大通りへ。
この時間帯、駅に続く大通りの混雑は半端じゃない。通勤ラッシュはどの街でも共通なのだ。
みな忙しそうに小走りで道を行く。
人の流れは不規則のようでいて規則があり、みな魚のようにそれぞれのルートを確保している。
坂を下りて住宅街を越えて大通りへ。
この時間帯、駅に続く大通りの混雑は半端じゃない。通勤ラッシュはどの街でも共通なのだ。
みな忙しそうに小走りで道を行く。
人の流れは不規則のようでいて規則があり、みな魚のようにそれぞれのルートを確保している。
その中で違和感があるのが一人。
学生服でぼんやりと大通りを眺めている、場違いな自分である。
「道を間違えた」
……まったく、何をやってるんだろう。
学校への近道は住宅街から交差点に出るルートだ。
わざわざ大通りに出るなんて大回りもいいところで、このルートのメリットといったら——�
「交差点を迂回していけるコトぐらいか……有彦と顔を合わす可能性は激減するな」
む。わりと、このメリットは巨大かも。
「にしても、こっちの人込みは凄いな」
溢れかえる人、人、人。
そのどれもが見知らぬ顔なんだから、この街の事なんてまだ百分の一も知っていないんだろうなあ、とか思ってしまう。
過ぎていく人波。
それがどうという事もないけど、その中に一人ぐらい見知った顔があると、ここにきた甲斐があるっていうものなのだが———
□繁華街
「—————————え?」
目の錯覚か。今、誰か。
「—————————え?」
目の錯覚か。今、誰か。
……いた。
「———こっちを、見てる?」
人込みの中、誰もが通りすぎて行く雑踏の中で、見知らぬ少女がこちらを見つめている。
人込みの中、誰もが通りすぎて行く雑踏の中で、見知らぬ少女がこちらを見つめている。
見知らぬ少女だって……?
馬鹿を言うな、遠野志貴はあの子のコトを知っている筈だ。
ただそれを忘れているから、見知らぬ少女と錯覚している。
……見知らぬ少女は見つめている。
それがこんなにも目を奪うのは何故だろう。
この人波の中で立ち止まっているからか。
それとも黒一色なんていう服装が目立つからか。
————分からない。
ただあの子に見られているだけで、ひどく——�
ただあの子に見られているだけで、ひどく——�
心臓が、違和感を叩きつけてくる。
「—————君」
呼びかける。だがここからでは遠すぎる。
近寄って声をかけなくてはいけないのに足が動かない。
□繁華街
「——————」
少女の姿はない。
人込みに融けてしまったのか、もうあの視線も感じられない。
————また、逃した。
何の脈絡もなく、悔しくて胸を掻きむしる自分がいる———
少女の姿はない。
人込みに融けてしまったのか、もうあの視線も感じられない。
————また、逃した。
何の脈絡もなく、悔しくて胸を掻きむしる自分がいる———
と、そんな事をしているうちに時間が差し迫ってきていた。
「ありゃ、そろそろいかないとまずい」
大通りから学校までは十五分弱。
残念、せっかく早起きしたというアドバンテージも台無しになってしまった。