小学生のときに、デパートで行なわれていた人集め企画、�コンピュータの恋人選び�が流行したことがあった。あるとき仲の良かった友だちから「恋人選びをやってみたいけど、一人で行くのは嫌だから、一緒に行こうよ」と、しつこく誘われた。そのころ一番人気があった芸能人は、何といっても加山雄三。クラスでいち早く恋人選びをやったエリちゃんは、相手が加山雄三と出たので、将来彼と結婚できるかのように有頂天になっているのだった。私はそういう女の子はバカにしていたので行きたくなかったが、友だちがあまりに熱心なので、それにつきあうことにしたのである。
紙に書かれた質問にハイ、イイエで答え、五分待つと結果が出てきた。興味はないといえども、さすがに相手の名前を見るときはドキドキした。私のほうは「アナタニピッタリノヒトハ、カレシカイマセン」と書いてあり、そこには「寺田農」の名前があった。友だちは横目でのぞきこんでいたが、自分の相手の名前を見たとたん、ウッといった。彼女の相手もリエちゃんと同じ「加山雄三」であった。「ねえ、恋人っていうのは一人一人違うよね。どうして私、リエちゃんと同じなの」。これは正論だった。結局、恋人選びをした女の子のほとんどに、加山雄三が登場していたことが判明した。いくら好きでも、どうも女というものは、子供のころから他の女とは男を共有したくないようで、「コンピュータはインチキだ」という結論に達して、嵐のようなブームもおさまったのである。