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十二国記144

时间: 2020-08-26    进入日语论坛
核心提示: 夜風を吸いにテラスに出ると、そこには先客がいた。「楽俊」 声をかけると雲海を見ていたネズミがふり返る。かるく尻尾《しっ
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 夜風を吸いにテラスに出ると、そこには先客がいた。
「楽俊」
 声をかけると雲海を見ていたネズミがふり返る。かるく尻尾《しっぽ》をあげてみせた。
「また、寝られない?」
「いろいろと考えることがあってな」
「考えること?」
 聞くと楽俊は大きくうなずく。
「どうやって陽子の気を変えようか、とか」
 陽子はただ苦笑した。
 昨夜と同じように楽俊の隣に並ぶ。手摺《てすり》にもたれて雲海をみおろした。
「ひとつ、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「なぜ、わたしを王にしたい?」
「王にしたいんじゃねえぞ。陽子は王だ。もう麒麟《きりん》に選ばれてるんだからな。なのに玉座を捨てようとしてる。だから止めたいと思っているだけだ。王が国を見捨てると、民も王も不幸になる」
「わたしが王になったら、もっと不幸になるかもしれない」
「そんなことはない」
「なぜ?」
「陽子にならできると思うからだな」
「……できない」
「できる」
 短く言ってから楽俊はためいきをつく。
「どうしていまさらそんなに卑屈になるんだ」
「自分ひとりのことじゃないから」
 陽子はただ打ち寄せる波を見おろす。
「自分ひとりのことならやってみる。自分で責任のとれることなら。失敗してもわたしが死ぬだけならいい。でも、そうじゃないだろう」
「慶《けい》国の連中は国に帰れる日を待ってんだぞ」
「そう。豊かな、平和な国にね。わたしがそれを与えてあげられるとは思えない」
「麒麟に選ばれた以上、誰でも名君の資質があると、延《えん》王は言ったろう」
「ほんとうにそうなら、どうして慶国が荒れる? どうして巧《こう》国が荒れるわけ? たとえ資質はあっても、資質を生かしていくことが難しいからじゃないか」
「陽子ならだいじょうぶだ」
「根拠のない自身は奢《おご》りというんだ」
 きゅうぅ、と楽俊はうつむいた。
「卑屈になってるんじゃない。根拠のない不信なら卑屈と言われてもしかたないけど、わたしの不信には根拠がないわけじゃない。わたしはこちらで沢山のことを学んだ。その最たるものが、平たく言えば、わたしはバカだということだ」
「陽子」
「自分を卑下《ひげ》して満足してるんじゃない。わたしはほんとうにおろかだった。そんな自分をわかって、やっとおろかでない自分を探そうとしてる。これからなんだ、楽俊。これからすこしずつ努力して、すこしでもマシな人間になれたらいいと思っている。マシな人間であることの証明が麒麟に選ばれて王になることなら、それを目指してみるのもいいかもしれない。でも、それは今のことじゃない。もっとずっと先の、せめてもうすこしおろかでない人間になってからのことだ」
 そうか、と楽俊はつぶやいて手摺を離れた。ほたほたと広い露台を歩き回る。
「陽子は怖いんだ」
「怖いよ」
「大きな責任が肩にかかってきて、それですくんでる」
「……そう」
「早く景麒《けいき》を取り戻しに行け、陽子」
 陽子がふり返ると、楽俊はひとりで自分の影を踏んでいる。
「おまえひとりでやるんじゃねえぞ。なんのために麒麟がいるんだ。天が麒麟を王にしなかったのはなぜだ。おまえは自分を醜《みにく》いと言う。浅ましいと言う。自分で言うんならそうなんだろうさ。だがな、景麒がおまえを選んだ以上、景麒にはおまえの醜さや浅ましさが必要なんだ」
「そんなこと」
「足したらちょうどよくなるんだろうさ。おまえだけでもたりねえ、景麒だけでもたりねえ。だから王と麒麟と、ふたつで生きるように作られてるんじゃねえのか。麒麟もいわば半獣だ。半獣の陽子と、半獣の麒麟と、それでちょうどいいんだろうさ。きっと延王も延麒《えんき》もそうなんだと思う」
 陽子はただうつむいた。
「王になるってんで有頂天《うちょうてん》になる人間だっているだろう。民のことを考えて怖《お》じ気《け》づく分別があるだけでも、おまえは玉座につく資格があるよ」
「そんなことじゃない」
「景麒を信じろ」
「でも」
「もっと自分を信じてやれ。五年あとに王の器になれるなら、今から王でもいいじゃねえか。ここですくむ必要がどこにある?」
「でも……」
「景麒はもうおまえを王に選んでるんだぞ。今この地上に陽子以上に景王に向いた人間はいねえ。天意は民意だ。今この地上に陽子以上に慶国の民を幸せにできる王はいねえんだ。もっと呑《の》んでかかっちゃどうだ。慶国の民はおまえのものだ。おまえが慶国のものであるのとおんなじにな」
「だけど」
「マシな人間になりたいんだったら、玉座に就《つ》いてマシな王になれ。それがひいてはマシな人間になるってことなんじゃねえのかい。王の責任はたしかに重い。いいじゃねぇか。重い責任でしめあげられりゃ、さっさとマシな人間になれるさ」
「なれなかったら?」
「マシになる気があれば、いやでもなれる。麒麟と民がおまえの教師だからな。それだけの数の教師がいて、バカでいられるはずがねえ」
 陽子は長いことだまって海を見ていた。
「……王様になったら帰れないね」
「帰りたいか?」
「わからない」
「わからないのか?」
 陽子はうなずいた。
「正直に言うと、あちらがそんなにいいところだったとは思えない。こちらも前ほどいやじゃない」
「うん」
「でも、こちらに来てからずっと、帰ることだけを考えてきた」
「……それは、わかる」
「両親がいるの。家があって友達がいるの。ほんとうに絶対いい両親でいい友達だったか聞かれると困るけど、それはあの人たちだけの責任じゃない。わたしは貧しい人間で、だから貧しい人間関係しか作ってこられなかった。でもここで帰ったら、もっとちゃんとやれると思う。ぜんぶ一からやり直して、自分が生まれた世界に自分の居場所を作れると思う。おろかだった自分がほんとうに悔しいから、あそこでちゃんとやり直してみたい」
 手摺をにぎりしめた手に滴《しずく》がこぼれた。
「たとえやり直すことなんかできなくても、あそこはもうわたしのいるべき世界じゃないのだとしても、それでもやっぱり懐《なつ》かしい。わたし、別れの言葉も言ってこなかった。前もって心の準備をするひまがあってちやんとお別れができていたら、こんなに苦しくなかったかもしれない。でも、なんの準備もなくて、なにもかも放り出したままで」
「……そうだな」
「それでなくても、今日までずっと帰りたいって、絶対に帰るんだって、それだけで頑張ってきたことをあきらめるのはすごくつらい……」
「うん」
「ここで帰ったらきっと後悔すると思うけど、帰らなくてもきっと後悔すると思う。どちらにいても絶対に片方が懐かしい。どっちも取りたいけど片方しか選べない」
 そっと暖かいものが頬に触れた。それが頬をつたったものをぬぐってくれる。
「……楽俊」
「ふり向くなよ。今ちょっと障《さわ》りがあるからな」
 笑みがこぼれて、それといっしょに涙がこぼれた。
「笑うな。しかたねえだろ。ネズミのまんまじゃ手がとどかねえんだから」
「……うん」
「あのなぁ、陽子。どっちを選んでいいかわからないときは、自分がやるべきほうを選んでおくんだ。そういうときはどっちを選んでも必ずあとで後悔する。同じ後悔するなら、すこしでもかるいほうがいいだろ」
「うん」
「やるべきことを選んでおけば、やるべきことを放棄しなかったぶんだけ後悔がかるくてすむ」
「うん……」
 頬をかるく叩いてくれるてのひらが暖かい。
「おいらは陽子がどんな国を作るのか見てみたい」
「……うん。ありがとう……」
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