好きな映画はと聞かれて想い出すのは、『十戒』でも『トラック野郎』でもなく『ひなぎく』というチェコスロバキアのカルト・ムービー。とりたてて期待もかけず連れていかれたレイトショーで、スゴくスゴくスゴく愉しくて、見終えた後、夜の国道の真ん中をマーチにあわせて行進したくなる程に感動したのでありました。内容はというと、世の中をなめたニューウェイビーな女のコ二人が、気分次第でお部屋に火をつけたり、立派なパーティの用意がされた会場に忍び込んでごちそうを食い散らかしたりと、傍若無人な大暴れを繰り広げるだけなのですが、これが実にカッコよいのです。無思想であることが、ハレンチでズルくてバカで刹那的でワガママであることが美しいのは、乙女にしか赦されない特権です。サドもジュネも飛び越えて、可愛さだけで神に反抗する存在の、鉱石の単純さに似た一種幾何学的な爽快さは、とても男のコに真似の出来る代物じゃございません。
男のコはどうあがいても社会的にポジティヴな存在なので、いくらデカダンスでもアナーキーでも所詮はアンチ、たかがしれています。しかし女のコは社会のお荷物。お荷物ということはオブジェということで、存在の純粋でありうるということです(なんのこっちゃ)。男のコのヒーローは社会の為に戦って誉められますが、女のコのヒーローは誉められません。故に女のコのヒーローの行動に大義名分はなく、それは個人的趣味に帰結します。「一生、遊んで暮らしたい」「苦労なんてしたくない」「ちやほやされて、泣けば全てが赦されたい」これはお荷物としての正しい人生哲学でありましょう。
そんな『ひなぎく』が、知らぬまにビデオで発売になっていました。無法な乙女のバイブルなので、是非購入せねばと思ったのですが、気分としては万引きで手に入れたいですねぇ。でも、やんぬる哉、野ばらは男のコ。嗚呼、万引きをしてもその存在の純度を傷つけることのない『ひなぎく』なものになりたい。金銭的な欲望とは関係なく銀行強盗や、怨恨と無関係に殺人がしてみたい。精神的に社会的に自立出来なくてもいいから、美として自立していたい。不道徳ではありません。これは非道徳。乙女は道徳が好きですが、基本的に非道徳主義なのです。