貴方は小春日和に似ています。まだ寒い季節、風さえ吹かなければ春がきたのかと紛うよな一瞬の暖かな日は、しかし見渡せば枯れ葉さえも吹き去った荒涼とした風景で、ぽかぽかとすればする程やけに僕を哀しくさせるのです。
貴方は冬の星に生まれ落ちました。「少女」という宿命の下に。嗚呼、この世界で最も不毛なる者よ。春に憧れつつも春にはなれず、夏の日差しには耐え切れぬ絹ごし豆腐のような身体を持ち、秋に至るには幼過ぎる無垢な魂をした白痴の子供よ。貴方が一体どれくらいの絶望を呼吸しながら、それでも春の真似事をするのか、それはきっと誰にも解りはしません。貴方はいつも素手で世界を受けとめようとします。大き過ぎる現実も優し過ぎる夢想もそのままに、全てが見えるが故に全てを正直に抱え込もうとします。ねぇ、生存本能とは自らを欺き、都合のよいデータだけをセレクトしていくものなのですよ。そうでなければ、僕達は哀しみや優しさに押し潰されて、一歩も前には進めなくなってしまうのですから。だから君は時折、壊れます。ノートや新聞紙や消しゴムを食べさせられ、病気になってしまう動物園の羊みたく。
真冬のはかない暖かさにしかなれない「少女」は、まるで成長することを止められ、永遠の命を与えられたが故に無窮の時を一人きりで旅せねばならぬバンパネラのようですね。でも貴方は、自分の胸に銀の杭を打ち込もうとはしません。だって、貴方はそれでもこの世界がたいそう気に入ってしまったのですもの。貴方の照らしだす日差しで開花した不思議な花の美しさに、貴方は希望を見出しました(実はそれは貴方と同じく永遠の命を与えられた不自然な造花だったのですが)。
貴方は何処までも気づかずに行くでしょう。それならば、僕も貴方を追い続けましょう。賢者の石に見入られた間抜けな錬金術師の運命を受け入れ、或いは時空の壁さえも引き裂きつつ、貴方が「今は春ですよね」と弱気になった時、「勿論ですとも」と答える為だけに。茨の国のお姫様は試練の果て、とこしえに幸せな一生を送らねばなりません。そう、絶望が消失しないのならば、それは癒されなければならないのです。
貴方は小春日和に似ています。それが僕を哀しくさせます。