鉱石に夢中になった頃、勢い余って宝石の虜となってしまったように、最近流行りのアロマテラピーを齧ってしまったが故に、あら大変、僕は香水フェチになってしまいました。
さても嗚呼、宝石と香水。これは究極にして最高に無意味な乙女の贅沢ではありますまいか(マダムな贅沢ですって? いえいえ、あえて乙女の贅沢ということにしておきませう)。
たかが地表の一欠片、海で譬《たと》えるならモズクのようなものなのに、人生はもとより国家の運命さえ破滅へと導く宝石の怜悧な輝きと、何の実体も伴わず嗅覚だけに訴える、ボトルの形状と謳い文句のみ、まるでコンセプチュアル・アートのような付加価値の化身である香水のスノッブな快感。どれほど権威的になろうともファッションの域を逃れられぬ、遊戯の産物としての宿命しか有せぬ二つの愉しみは、乙女という非社会的存在の象徴、全ての価値が美のみに還元されるはすっぱな自己満足以外の何物でもありません。子供の頃、宝石と香水といえば浅はかな女の欲望というステレオタイプなイメージを植えつけられたものです。しかし浅はかな欲望、それは何と素晴らしい衝動でしょう。見栄、体裁、外連《けれん》、虚飾……これらの醜悪な欲望を伴いながらも燦然《さんぜん》と屹立する宝石と香水。宝石と香水からこれらの欲望を拭い去るべきではありません。宝石と香水は醜悪な欲望と共に栄え、その価値を増すのです。高価であればある程美しきオブジェ。そこにはヒューマニズムへの軽やかなアンチテーゼがあります。貧しさに美が宿るものですか! 美とは富より抽出されし特権的快楽。宝石と香水という古来より権力者に愛されてきた二つの道化は、この民主主義の世において辛くも硬質な美への意識を喚起させてくれるのです。
宝石はまだまだ買える身分ではありませんのでうっとりと博物館で眺めるだけ、香水は先ずは手始めに Dior の POISON を購入してみました。何て悪趣味な香り。でもこの不自然な媚薬然とした強烈さこそが初心者には香水のダイナミズムとして心地好く感じられるのです。次は COCO、それとも VOL DE NUIT にしようかしら。オホホホホー。すっかりオバサマですわね。さらにいうなら男のコなのに……。いつか総ダイヤの王冠を被りたいものですわ。欲望よ、永遠に燃えさかれ!