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正しい乙女になるために61

时间: 2020-10-31    进入日语论坛
核心提示:太宰調ノエル もうすっかり大人だというのに、社交的でなければならぬこのようなお仕事に就いて何年も経つというのに、未だよく
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 太宰調ノエル
 
 もうすっかり大人だというのに、社交的でなければならぬこのようなお仕事に就いて何年も経つというのに、未だよく知らない人と会うと指と声が小刻みに震えるのです。対人恐怖症、その症状を押さえる為あらゆる努力をしてはみるものの大きな効果はなし。対面の後、自己嫌悪は計り知れず夜中、恥ずかしさに耐えかね大きな叫び声をあげること、初対面の人と会う日の朝、嘔吐してしまうことなかなか治らず、もう自分を見限ってしまいたく思うのです。自意識を抑えることを学びつつなんとかこれまでやってきはしたものの、それでも根本的に僕は人が恐ろしい。どんなに親しい間柄でも僕には他人が恐ろしくて仕方がないのです。
 何時までこんな思春期の感情に支配されていなければならないのでしょうか。世界と僕との間に横たわる厚い被膜。勿論、人が親切にしてくれると嬉しくなるし、好意を寄せてくれれば涙が出る程有り難い。なのにそんな人達にさえ僕は時折恐怖を感じてしまう。息をし思考する、体温を伴う存在自体が僕を押し潰すのです。フィクションのみが僕を落ち着かせる。僕は幻想そのものになりたいのです。
 それなのに何故か僕は君と逢う約束をする。逢う前は嘔吐し、逢うと何を話してよいのか解らず、やはり存在のリアリティに只途方に暮れるばかりだというのに。嗚呼、君よ。願わくばこんな僕を赦し給え。僕は幻想の君にしか興味がなく、君が必要以上に現実になり始めると逃げ出してしまう。それでも願わくば憐れみ、そして愛し給え。怯えながら、それでも僕は君を必要としている。僕の残酷な願いを叶える為に、君よ血を流し給え。君への報酬は僕の王国で茨のティアラを被り、その生気をそがれ蝋の人形となる権利だけれども。君と僕しか免疫のないウィルスの雨を降らせて僕はやがて誰もいない清潔な世界を支配する。君は僕を軽蔑し、僕は泣きじゃくりながら頑是なく君を責めたてる……。
 早くこの病を治癒させたく思います。しかし嫌らしいことにこの病の身体が僕には愛しい。ねぇ、君。僕は知っているのですよ。君もまた僕と同じ病に取り憑かれていることを。僕は自分と同じものしか愛せません。僕達は肩を寄せて世界に震え続ける。君とならそれさえも甘美に感じることが出来ます。だから、ねぇ……。僕と君を祝福いたしましょう。
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