アイスランドのある村の人びとが、南の山のいただきを見ると、そのすぐ上にお月さまがかかっていました。
あの山の上までいけば、だれでもわけなくお月さまをつかまえて、村まで持ってこれそうです。
もし、ながい冬の夜のあいだじゅう、お月さまをそばにおいておくことができたら、さぞかしきれいですてきでしょう。
それにそうなれば、ランプにいれる油がなくてもいいわけです。
そこで村の人たちは、みんなで山へのぼっていって、お月さまをつかまえてこようと相談しました。
ところが、みんなが山の上までいってみると、なんとお月さまは、もう山の上にはいないのです。
高い空を走っていって、ずっと南のほうヘいってしまっているではありませんか。
どんなに腕のながいものでも、そこまではとてもとどきそうもありません。
けれどもみんなは、お月さまをつかまえずに村へ帰るなんて、はずかしいことだと思いました。
そこでなんとかお月さまをつかまえようと、大いそぎで、こんどはもっと高い山にむかいました。
ところが、その山のいただきまでいってみると、お月さまはまたまた、むこうへいってしまっているではありませんか。
みんなは、お月さまがこわがっているのだと思いました。
そこで、山から山ヘとよじのぼっては、できるだけやさしそうなあまい声をだして、
♪お月さま、お月さま。
♪わたしのポケットの中へいらっしゃい。
♪あなたに、おいしいバターパンをあげますよ。
と、口ぐちにさけびました。
けれどもお月さまは、バターパンをもらいに、ポケットの中へはいってはきませんでした。
どんどんじぶんの道をすすんでいって、ほかの人をもてらしつづけました。
いっぽう、村の人たちは死んだようにグッタリとつかれきって、家に帰ってきました。
お月さまをつれてこなかったことは、いうまでもありません。