心配した友だちがよびにいっても、家にこもったきり外に出ようとしません。
でも半年ほどたって、やっとダンスバーティーにさそい出すことができました。
そのダンスパーティーの会場で、若者はなくなった恋人によく似た娘を見つけたのです。
すその長い白いドレスをきたその娘は、だれともおどらず、かべぎわにひっそりたっていました。
(本当によく似ているな。まるであの子が生きかえったようだ)
若者は吸い寄せられるように、その娘のそばにいきました。
「きみ、どうしておどらないの?」
「だって、知っている人がいないんですもの」
「よかったら、ぼくとおどってくれませんか?」
手をにぎると、娘は氷のようにつめたい手をしていました。
若者は、夢をみているような気持ちでしばらくおどったあと、娘をコーヒーに誘いました。
ひと休みする人たちで込みあっていたので、二人はたったままでコーヒーを飲みます。
「あっ!」
だれかがぶつかったひょうしに、娘のコーヒーがこぼれました。
白いドレス一面に、コーヒーのシミが出来てしまいました。
若者がすぐにふいてやりましたが、シミはどうしてもとれません。
すると突然、娘が帰りたいといいだしました。
「じゃあ、送っていくよ」
と、若者がいいましたが、娘は、
「いいえ、大丈夫よ。一人で帰れるわ」
と、断りました。
でも、若者はどうしても送っていくといいはって、娘と一緒に外に出ました。
そのとき、若者は娘がコートをきていないことに気がつきました。
「きみ、コートは? さむくないのかい?」
「大丈夫、さむくないわ」
と、娘は答えましたが、若者は自分のジャケットを脱いで、娘の白いドレスの上からきせてやりました。
「・・・ありがとう」
しばらくいくと、娘はふいにたちどまりました。
そのあたりには、大きな墓地があります。
「送ってくれてありがとう。でも、もうここでいいわ。すぐそこなの」
娘はそういって、ジャケットをかえそうとしました。
すると若者は、
「いいんだよ。さむいから家まできていけよ、あしたとりにくるから。じゃあな」
と、いって、走り去りました。
次の日、若者は娘と別れたところまできてみました。
ゆうべは暗くて気がつかなかったのですが、墓地の近くに人家などありません。
「おかしいなあ? たしかにここで別れたんだが」
そのとき、墓地の入り口に、自分のジャケットがかけてあるのに気がつきました。
それを見て、若者はふと思い出しました。
若者の亡くなった恋人は、この墓地に埋葬(まいそう)されたのです。
「も、もしかして・・・」
若者は墓地の管理人のところにとんでいくと、恋人の墓を開けてほしいとたのみました。
「どんなわけがあるのかね?」
「実は死んだはずの恋人に、昨日、会ったかもしれないのです」
管理人は若者の話を聞くと、首をかしげながらも墓をあけてくれました。
「あっ!」
墓の中を見た若者は、びっくりしました。
なくなった恋人は、白い死に装束のままひつぎの中に横たわっていましたが、その白い死に装束には、はっきりとコーヒーのシミがついていたということです。