「これから一緒に、バターをつくってみないか?」
「いいね。よし、一緒にバターをつくろう」
それでさっそく、ウシたちからたくさんのミルクをもらって来ました。
そしてそれをツボに入れ、グルグルかき回して固めると、バターの出来上がりです。
「さあ、さっそくこれを食べてみよう」
ウサギがそう言うと、オオカミが首を横に振りました。
「いやいや、これは寒い冬が来て食べ物が少なくなる時まで、大事にしまっておこう」
そこでバターをいっぱい入れたツボを、森の中に埋めておく事にしました。
「こうしておいて、きみもぼくも冬になるまで、森の中のこの道は通らないという約束をしておこう」
「うん、そうしよう」
ウサギとオオカミは、約束しました。
ところが食いしん坊のウサギは、そのバターを食べてみたくてたまりません。
「ああ、冬まで待ちきれないなあ。
バターが食べたいなー。
・・・そうだ、オオカミくんにはないしょで、ほんのちょっぴりなめてみよう」
それで自分だけ、そっと森の中へ入って行ってツボを掘り出し、中のバターを少し食べました。
さあ、そのバターのおいしい事。
次の日になると、また食べたくなったので、
「もう、ちょっぴりだけ」
と、また森へ入って行きました。
そしてウサギが大急ぎで森の中から駆け出して来るところを、オオカミが見つけたのです。
「ウサギくん。森の道は、通らないという約束だよ」
「ああ、その、それがね。
実は、森の向こうにいる姉さんが、可愛い男の赤ん坊を生んだという知らせを聞いたので、早く見に行きたくて、ついあの道を通ったのさ」
「ふーん。それならいいけど」
ところが次の日もまた、オオカミは森の道を駆けて行くウサギを見かけましたので、
「ウサギくん。今日も約束を破ったね」
「ああ、ごめんごめん。お姉さんがね、今度は可愛い女の子を生んだというので、見に行ったのさ」
「ふーん。それならいいけど」
そして二日たってまた、森から出て来たウサギをオオカミは見つけました。
「おいおい、また約束を破ったな!」
「あっ、ごめん、お姉さんがね、可愛い三番目の赤ん坊を生んだのを見に行ったのさ」
「毎日毎日、赤ん坊が生まれるものか。本当は、あのバターを食べに行っていたんだろう」
「ウソじゃないよ。本当に赤ん坊が生まれたんだ」
「よしそれなら、これから一緒に森の中へ調べに行こう」
オオカミはそう言って、ウサギを森へ引っ張って行きました。
そして埋めてあったバターのツボを掘り出して、ふたを開けようとしたので、ウサギはあわてて、
「あいたた! お腹がいたくなった!」
と、言って、パタパタ逃げて行きました。
オオカミがふたを取ってみますと、ツボの中はすっかり空っぽになっていました。
「やっぱりだ! あのうそつきウサギめ!」
怒ったオオカミは、ウサギを追いかけました。
その時です。
「ああ、たすけてーぇ!」
と、叫ぶ声がします。
オオカミが声のする方へ行きますと、草むらの中でウサギがバタバタと暴れていました。
あんまりあわてて逃げたので、うっかり人間が作ったワナにかかってしまったのです。
ワナに足をはさまれたウサギは、一生懸命叫びました。
「助けておくれよ! オオカミくん!」
「いや、きみの様なウソつきは、もうぼくの友だちじゃないよ」
「ああ、どうか許しておくれ。もう二度とあんな事はしないから」
「本当だね」
「本当だとも」
ウサギが泣いて謝ったので、オオカミはウサギをワナから助けてやりました。
でもこの時、尻尾だけがワナに切られてしまったのです。
その時からウサギの尻尾は、今の様に短くなったのです。