むかしむかし、原っぱの中を、ウサギがヒョイヒョイとあるいてきました。
むこうをみると、おいしそうなやさいがたくさんおちています。
(こいつはラッキー)
と、くいしんぼうのウサギは、パッととびつきました。
ところが、それは人間のしかけたワナで、ウサギはたちまちつかまってしまいました。
逃げようにも、からだになわがまきついてしまい、うごくこともできません。
そこへ、ワナをしかけた人間がやってきました。
「やいウサギ! おまえだな、まえからうちの畑のやさいをとってたべたりしていたのは。まずはおまえを、パンパンにぶってやろう」
そういって人間は、ウサギをぶつための木のえだをとりに林へはいっていきました。
ちょうどそこへ、キツネがやってきました。
ワナにはまってうごけないウサギを見ると、キツネは、
「ほう、ウサギどん、きょうはまいってるようだね」
と、いいました。
キツネとウサギは仲がわるくて、けんかばかりしていたのです。
キツネがからかうと、ウサギはしばられているのにへいきなかおをして、
「キツネどん、わしがこんなワナなんかに、ひっかかるとおもうかね。これはわざとだ。わしがたのんで、人間にしばってもらったのだよ」
「えっ? なぜ、しばらせたのだい?」
「いま、村の知り合いとばったりあってね。結婚のおいわいがあるので、ぜひきてほしいとたのまれたんだが、その男はわしがきまぐれなのを知っていて、にげられないようにわざと木にぶらさげて、わしをはこぶカゴをとりにいったのさ。わしはそのむかえのカゴを、まっているわけだ」
「ふーん、そんなおいわいなら、ごちそうも多いだろうなあ」
「多いとも! おなかいっぱい、おいしいものがたべられるよ」
「いいなあ」
くいしんぼうのキツネは、うらやましそうな顔をしています。
「どうだい、わしにかわって、そのおいわいに出てみたくないかい?」
「うん! ウサギどん、たのむから、わしをいかせておくれよ」
「よし、そんなにいうんなら、かわってあげようか」
そこでウサギは、じぶんのからだのなわをキツネにほどかせて、そのかわりに、キツネのからだをしばってしまいました。
そしてじぶんはさっさと、どこかへきえていきました。
そのあとそこへ人間がもどってきて、ウサギがキツネにかわっているのでビックリ。
「あれ、いつのまに、かわったのだい? だが、キツネもニワトリをとったりするこまりものだ。よし、きょうはおまえをこらしめてやろう!」
人間は木のぼうで、ポカリポカリとキツネをぶちます。
キツネはしばられているので、にげることができません。
そのうちに、つかっていた木のぼうがおれたので、男はかわりのぼうをひろいに、また林へはいっていきました。
そこへウサギが、もどってきました。
「ウサギどん、ウサギどん、たすけてくれ」
と、キツネはいっしょうけんめい、ウサギにたのみます。
「たすけてやってもいいが、これからは、わしに出あったら、『いつでも、お元気ですか? ウサギどん』と、あいさつするかい?」
「うん、するする! きっとあいさつするよ!」
「よし、じゃあ、たすけてやろう」
と、ウサギはキツネのなわをといてやりました。
「ああ、ありがとう。おかげでたすかったよ」
キツネはウサギにだまされてしばられたこともわすれてしまい、ただワナからぬけでることができたのをよろこんで、おれいをいっています。
そして、人間がまたぼうをひろってもどってきたときには、ウサギもキツネも、もうどこかへいったあとでした。
むかしむかし、ある森に、イタズラ好きのウサギがいました。
そんなイタズラウサギを何とか捕まえようと、キツネはあれこれ考え、
「・・・そうだ! 良い方法があるぞ!」
と、キツネはコールタール(→石炭から取れる、ネバネバしたもの)に松ヤニをたっぷり混ぜると、それで人形を作ってウサギが通る道ばたにポンと立てました。
「さあ、これで完成だ」
キツネが草むらに隠れると、間もなくイタズラ好きのウサギがやって来ました。
ウサギは人形を見つけると、人形にあいさつをしました。
「やあ、おはよう。今日は、いい天気だね」
「・・・・・・」
もちろん、人形は何も言いません。
「おはよう。・・・聞こえないのか?」
「・・・・・・」
「おい、黙っているとは生意気だぞ!」
「・・・・・・」
人形は、やっぱり何も言いません。
「返事しないと、一発、くらわすぞ!」
「・・・・・・」
それでも黙っている人形に腹を立てたウサギは、げんこつをにぎると人形の顔をパチンと叩きました。
すると、
「あっ!」
ウサギの手は、コールタールの人形にベチャリとくっつきました。
「おい、もう一度殴られる前に、おれさまの手を離したらどうだ!」
怒ったウサギは、もう片方の手で人形の顔をバシンと叩きました。
するとその手も、コールタールの人形にベチャリとくっつきました。
「こいつめ!」
さらに怒ったウサギは、両足で人形を蹴飛ばしました。
しかし両足も、ベチャリと人形にくっつきます。
「ちくしょう! これでもくらえ!」
ウサギは次に、頭突きをくらわせました。
もちろん頭も、ベチャリとくっつきます。
こうして体中がコールタールの人形にくっついてしまったウサギは、身動き一つ出来なくなりました。
それを見ていたキツネは、笑いながら草むらから出てきました。
「おやおや、これはウサギくん。
何だか大変な事になっているね。
いつも威張っているお前さんも、これでおしまいかな。
どれ、このまま枯れ草に集めて火をつけて、おいしいウサギの丸焼きを頂こうとするかな」
それを聞いたウサギは、とてもなさけない声で言いました。
「キツネさん。
ぼくは、とても悪いウサギです。
だから、殺されても仕方ありません。
どうぞこのまま火をつけて、ぼくを丸焼きにしてください。
・・・でも、一つだけお願いがあります。
どうか野バラのしげみにだけは、入れないでください」
「いや、枯葉を集めて火をつけるのはめんどうだから、首つりにしてやるよ」
「どうぞ、首つりにしてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」
「いや、ひもがないから、首つりはやめた。川に沈めてやるよ」
「どうぞ、川に沈めてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」
「いや、この辺りには川がないから、いっそ皮をひんむいてやる」
「どうぞ、皮をひんむいてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」
「・・・うん? お前は、野バラのしげみにだけは、入れてほしくないのか。そうか、そうか」
キツネはウサギの後ろ足を持ち上げると、
「ならお前を、野バラのしげみに投げ込んでやる!」
と、言って、ウサギを野バラのしげみめがけて力一杯投げつけました。
「ワハハハハハ。どうだウサギめ、まいったか」
キツネは満足そうに、野バラのしげみを見ました。
すると突然、
「ははーん。まぬけなキツネ」
と、遠くの丘で、ウサギが叫んでいるではありませんか。
「まさか!」
ビックリするキツネに、ウサギが得意そうに言いました。
「おれさまが、野バラのしげみの中で生まれたのを忘れたのかい? 野バラとおれさまは親友同士で、野バラがおれを助けてくれたのさ」
ウサギはそう言うと、どこかへ行ってしまいました。