その家には、人間はだれもすんでいません。
でも、お化けが一人、すんでいたのです。
「だれか、お化けを退治してくれる者はいないかね。お礼に、お金はうんとはずむのだが」
と、家主は、家のまえにはり紙をしたり、たのんだりしました。
けれど、どんな力じまんも、本当にお化けを見ると体の力がぬけて、青い顔をしてにげてしまうのです。
さて、この町にトミーという、かしこくて勇気のある若者がすんでいました。
家主はトミーのうわさを聞いて、たのみにいきました。
「トミーさん、あなたのちえで、あの家のお化けをやっつけてください」
「いいですとも」
トミーは、あっさりとひきうけました。
あまりにもあっさりとひきうけたので、家主は心配になりました。
「本当に、だいじょうぶですか?」
「ええ、そのかわり、お酒とコップとあきビンを用意してください」
その晩トミーは、お酒をチビチビ飲みながら、お化けの出るのをまちました。
家の中はまっ暗で、月あかりがほんの少しあるだけです。
カーン、カーン。
時計が、十二時をうちました。
するとどこからか、ヒューッと不気味な音がして、鼻のないまっ白の顔のおそろしいお化けがあらわれたのです。
「やあ、こんばんは」
と、トミーはいいました。
するとお化けは、
「へんだな? たいていのやつはおれを見ると、あわててにげていってしまうのに」
「へんなのはきみじゃないか。この家は、まどもとびらもぜんぶカギがかけてあるんだぜ。それなのにどこから入ったんだい?」
「ウヒヒ、教えてやろうか?」
お化けは、気味の悪い顔でわらいました。
「うん。そしたらお酒を飲ませてやるよ」
「ほんとうに、こわくないのかい?」
「ちっとも」
「本当かい? うれしいな。じつはおれは、カギあなから入ってきたんだよ」
「カギ穴だって? まさか、いくらお化けだって、あんなに小さなところから入ってこられるわけないじゃないか」
トミーがわらうと、お化けはくやしそうにいいました。
「うそじゃない。本当だ!」
「ぜったいだね?」
「ぜったいだ!」
「じゃあ、この小さいビンの中にも入れるかい?」
トミーは、テーブルの上のあきビンをさしていいました。
「入れるとも!」
「本当かな? お化けはうそつきだっていうからな」
「じゃあ、見ていろ!」
するとお化けは、シュルシュルと小さくなると、ビンの中に入ってしまいました。
「いまだ!」
トミーは急いでビンのフタをしめると、遠くヘほうりなげてしまいました。
それっきりこの家には、お化けは出なくなりました。